感動のバー

 教育心理学会に参加するために東京に来ています。

 んでも、学会の話は後。飲み屋の話をしましょう。

 東京に着いた日、共同研究者のMさんとその初代学生さんのEさんとで、新宿南口にある秋田居酒屋で飲みました。おでんが大変おいしゅうございました。帰りに「10のつく日ですから」ということで生米を1人2合(ぐらい)ずつもらって帰りましたが、人妻Eさんにすべて差し上げました。

 次の日、国分寺まではるばる行き、学会に参加しました。Mさんとの共同研究の発表には大勢の方がいらしてくださいました。ありがとうございました。ちょっと元気がでてきました。

 11日の夜は時間があったのですが、どなたも誘ってくれなかったので、一人で新宿界隈を探索することにしました。ちなみに、学会で飲みに誘われることはまったくないのです。これは私の人格の問題ですね。飲んでいても暗く黙ってるだけですから。

 一軒目は歌舞伎町のまっただなかにあって奇跡的に安い居酒屋「やきとり番番」。カウンターのみの焼鳥屋ですが、5時に入っても席の半分くらいは埋まっているくらいの人気店です。煮込み豆腐、ガツ刺しなどを注文して、さんざん飲んで食って2600円くらい。ごちそうさまでした。

 2軒目は、ホテルに戻った後でふらふらしてふらりと何の気なしに入ったバー、「ドンキホーテ」。6時に足を踏み入れると、まだ準備中といった感じで冷たくあしらわれましたが、「こういう店ほどいいのだ」と思い踏みとどまりました。

 ジントニックを飲み一息つき、マスターに話しかけました。マスターは長らく歌舞伎町でお店を構えて入らしたのですが、例の家事騒ぎやヤクザ騒動で嫌気がさして静かなあたりに居抜きでお店を移されたとのこと。

 2人目のお客さんが入ってくるに及び、ここはいい店だと確信するに至りました。あまり詳しいことは言えませんが。久しぶりに、バーで酒を飲んで感動しました。バーで「大政小政」の話なんかすることはないですよねえ。

 3軒目は適当に入った焼鳥屋で。

 4軒目。ここもよかった。新宿5丁目の沖縄料理屋「宜野座」。カウンターで飲んでいると、突如後ろの座席でモーアシビが始まってしまいました。

 ずっと演奏者を見ながら酒を飲んでいると「あんたもやってみるかい」と女将さんに三線を弾くよう誘われ、とりあえずは開放弦の弾き方だけ覚えました。

 新宿歌舞伎町なんかで飲んではいけませんねえ。飲むなら外れの方ですよ。

日心

 先週末、北大で日本心理学会の大会が開催された。文学部の心理関係が主催である。

 2年前より「協力よろしく」と文学部の先生から頼まれていたので、開催日近辺はばっちりと予定を空けていた。が、
開催3日前になっても何の連絡もないので、知り合いの先生に尋ねてみると、「ああ、特にすることはないですよ」。そうですかそうですか。

 初日の午前中、ポスターで発表。知り合いを除いて1人の方が聞きに来てくださった。

 大学院のときの同級生とばったり会い、そのまま昼食へ。話は偽装食品問題から政治へおよび、「心理学なんかやってる場合じゃないよ」
とうなづきあう。

 夕方から、その同級生にもう一人加え、すすきのに出没。「ジンギスカンが食べたい」というのだが、いかんせんうまい店を知らない。
ネットで調べた「ひつじや」へ行こうと思うものの、場所が見つからず。仕方なく、「名前がいいから」ということで「しまだや」
なるジンギスカン焼き肉屋へ。あのジンギスカン鍋を使わず、網の上でラム肉を食う形式のようで、ちょっと申し訳なく思う。

 某大学では教員一人で使える研究費が5万円だそうで、愕然とする。うちは恵まれている。ひとしきり、
どうやって金を取ってくるかで盛り上がる。酔っぱらい、「明日は温泉に行こう」とうなづきあう。

 2日目の日中は、アマネの運動会に参加。このところの寝不足がたたり、昼寝。

 3時から動き出し、約束通り同級生2人をホテルからピックアップして、温泉へ。とはいえ、遠出する時間もなく、
JR苗穂駅前のスーパー銭湯「蔵ノ湯」へ。小1時間ほど湯につかる。腰にタオルをひっかけながら大学の人事について話し合う。

 3日目、名古屋のMさんと落ち合う。ご息女二人と邂逅。研究打ち合わせは遅々として進まず、その代わり、
研究会のあり方について議論が進む。

 夜は家内とアマネを呼んで、札幌駅北口の「焼き鳥ダイニングこっこちゃん」にて。子ども用のグッズがたくさん置いてあり、
いたれりつくせりであった。おかげで子ども3人連れの一行は比較的ゆっくりと食事をすることができた。

 今回は、インプットほとんどなし。学会期間中、会場のそばに研究室があるとそこで仕事をしてしまうということが分かった。

理想の酒場

 札幌生活6年目,ついに,ついに,わたくし個人的に理想の酒場に巡り会えました。

 ところは南北線平岸駅前。1番出口から出てすぐの通りを渡ると,数軒の飲み屋が軒を連ねた区画があります。その一軒,「もつ一」
がそこです。

 縄のれんをくぐると,変形コの字型のカウンター,そして左手に小上がりがあり,数卓のテーブル。お客さんはおらず,
おかみさんがカウンターに座って新聞を読んでいました。「いらっしゃい」。

 カウンターに座り,正面の板壁に貼られたメニューを見ると,お,黒ホッピーがあります。キンキンに冷えたジョッキに,
すでにできあがった状態でホッピーが注がれてきました。これで400円。お通しには昆布巻2つとこんにゃく。これが300円。

 お店の名前が「もつ一」だけに,小袋刺しなんてのがきちんとあります。珍しいので頼みます。薬味にはごま油を。出てきたのが,
小皿に盛られたマカロニ状のゆでられた小袋。こりっこりでおいしいですねえ。これで400円。

 もつ煮込みもありましたので,お願いします。ここのはオーソドックスな煮込み。味噌仕立てのスープに,もつ,こんにゃく,豆腐,
大根,その他が入り,上にネギがかけられています。煮込みなんて,と思うでしょうが,
札幌でおいしい煮込みに出会うのは希有な出来事なのですよ。煮込み不毛地帯と言ってもいいでしょう。
最近はホルモン焼きやもつ鍋が札幌でも流行の兆しを見せていますが,煮込みはてんでダメです。その中にあって慈雨のような存在,
それがここの煮込みです。これで400円。

 その他,串焼き1本100円をはじめ,メニューはいろいろありますが,一番高くて400円のようです。
トマトや厚揚げなど200円台のものも。これは心強い。

 もう一杯黒ホッピーを頼んだ頃に,もう一人お客さんが来ました。入り口右手の棚に置かれた焼酎の瓶を自分で取り出し,「ホッピー」
と注文。ボトルキープしておけば,自分でつくることが出来るみたいですね。

 お勘定は2100円。どうもごちそうさまでした。

 なんてことのない酒場なんですけどね,自宅に近く(歩けば15分程度),普通の煮込みがあり,新鮮なモツがあり,串焼きがあり,
さんざ食べて2000円以内で収まるようなお店を探していたんですよ。北千住で言えば「永見」級のお店と言えばお分かりでしょうか。

 いやあ,最高でした。また来よう。

 メモ: 「もつ一(いち)」 営業時間 平日 17:30~26:00,土日 17:30~24:00,月曜定休。

長崎ぶらぶらぶらりんこ

 家族で梅雨まっただなかの長崎空港に降り立ったのは夕刻6時過ぎ。ラゲージクレイムのガラス越しに義父を発見したアマネは
「じーじー!」と叫びながら自動ドアを駆け抜けていきました。

 車で自動車道を通り長崎市内へ。空港から長崎に入るのは何年ぶりでしょう。やたらと九州大学で学会があった年があったのですが,
そのときは福岡から「かもめ」に乗って行ったのでした。

 リンガーハットで夕食。アマネはここの餃子がお気に入りで,2皿くらいはぺろりと食べます。

 夕食後,まっすぐ妻の実家に帰宅…とはいかず,私はここで家族ともお別れ。市内の浜屋というデパート前で車から降ろしてもらいます。
なぜか。

 思案橋横丁を探索するためなのです。

 かつての長崎といえば,三大遊郭のあったという地。その丸山に行くために渡ったという思案橋。彼の地へ「いこかもどろか」
と思いめぐらせたことからその名がついたといわれる,情緒ある町です。

 その思案橋には飲み屋が建ち並んでいますが,その数軒をめぐってみようというのが,今回の私の長崎行きの1つの目的でした。
家族には無理を言ったと思っていますが,ほんとに楽しみだったのです。

 浜屋前から路面電車の線路を渡り,すぐに折れると思案橋横丁と大書された看板のまぶしい小路が。さて,どうしましょうか。

 てくてく歩くと縄のれんのかかったおでん屋さんがあります。「桃若」というんですが,横丁のなかでもとても古いお店,
太田和彦先生もご推奨の一軒です。やはり一番行ってみたかったここから始めるとしましょう。

 引き戸を開けると「いらっしゃい」とおかみさんが声をかけてくれます。入り口の右手に小上がり,正面にL字型のカウンター,
その角におでんが温まっています。カウンターにはカップルが1組とおじいさんが1人。「荷物預かりましょう」
と背中の荷物を持ってくれました。

 どこから来たんですか,おかみさんの言葉に「札幌から」と答えると,店のなかの雰囲気が一瞬変わりました。「ああそう,観光で?」
とはおでんを箸でつついていたご主人。「ええまあ」と生返事。

 まずはビールをもらいましょう。キリン,アサヒ,サッポロから選べるようですが,ここはやはりサッポロで。「どうぞ」
とご主人についでいただきました。飛行機を千歳から羽田,羽田から長崎と乗り継いできたので疲れていたのか,おいしいですねえ。

 「何にしましょう」とご主人。うーん,と悩んでいると,これとこれが沈んでいて,これがうちで手作りで,と教えてくれます。では,
その,それとそれといただきます(何を食べたのか正確には忘れてしまいました。確か,豆腐,ぎんなん,根昆布,大根,
すり身その他を食べた気が)。おでん屋に行くのはあまりないのですが,なかなかいいもんですね。梅雨の長崎,結構肌寒く,
温かいおでんがありがたい。

 ご主人とおかみさん,それに奥から息子さんが出てきて,いろいろと話しかけてくれます。
カウンターに座っていた他のお客さんも親身に話しかけてくれて,とても居心地がいい。

 「ここはどうしていらしたんですか」とご主人が尋ねるので,「その本で」と。ご主人の背にある棚に,太田先生の「居酒屋味酒覧」
のポスターが貼ってあったんですね。それを指さすと,おかみさんが「この本を読んで来られる方は,男性の1人客が多いですね」と。
「本当に有り難いことです」と嬉しそうでした。

 いつのまにかカウンターの上に枇杷の箱が置いてあり,「今年のは甘いですかね」と,おかみさんが一つくれました。

 小さいお銚子を2本空けて,他のお客さんがみな帰り,1人きりになった頃にお勘定をしていただきました。ごちそうさま,
噂にたがわぬ良いお店でした。では,次に行きましょう。

 思案橋横丁からさらに路地に入ったところにひっそりとある「こいそ」。ここも件の本に載っていたお店です。
路地に面した生け簀から店のなかの様子をのぞきますが,カウンターにはすでに先客あり,なかなかにぎやかそうです。では,入ってみましょう。

 引き戸を空けると,右手にカウンター,左手にテーブル席と,奥に小上がりがあります。カウンターには大皿が何種類も。
これは期待できそう。カウンター奥に陣取り,まずは生ビールをもらいます。

 大皿のなかに目がいきますねえ。「これは何ですか」とカウンターのなかを忙しく立ち働いていた娘さんに尋ねると,
「キビナゴの炊いたんに,これはいろんな魚の骨を揚げたもの,出すときには二度揚げします」。「あ,じゃあそれとそれ」と即決。

 キビナゴは甘辛く煮付けてあり,いい味。骨せんべいもいいですねえ。せっかくの九州,ここらで焼酎を飲みましょう。麦のお湯割りを。

 ご主人に,お母さんでしょうか,カウンターに出てきていただいて,いつの間にか長崎水害の話に。
「この辺は150㎝くらいは水が来たんですよ」と,目の高さくらいのところをご主人が指さします。

 さてそれではここらでしめにかかりましょう。しめですから,壁にかかっていた短冊で気になっていた〆鯖をいただきます。それと,
大皿のなかにあった,すじ肉のポン酢かけを小皿に盛ってもらいましょう。もう一杯お湯割りをいただいて,ごちそうさま。

 さて,ここから妻の実家に帰らねばなりません。正気を保っているあいだに,路面電車に乗り込みます。どこまで行っても100円とは,
見上げた電車ですねえ。どっかの市電には見習っていただきたいもの。西洋館の前をすぎた頃から,電車の揺れに気持ちが悪くなってきました。
酔い覚ましに,ちょっと降りて歩いていくことに。長崎大の前で降り,終点の赤迫まで雨の中歩きます。最後は義父に迎えに来ていただきました。

 長崎の夜はまだまだ奥が深そうですが,またの機会に。

 なお,次の日二日酔いで半日寝ていたことは秘密であります。

大学近辺で飲むには

 先日,卒業生と飲んだときのこと。夕方5時からすすきので飲み始め,夜10時に3軒目へ移動。とある事情でタクシーで札幌駅へ。

 当初目指していた北大南門そばのお店がラストオーダー過ぎて入れず。同行のIくんが「じゃああそこで」と誘ってくれたのが
umi
なるお店。え,こんなところにこんな店が?札幌にお詳しい人ならこの驚きは分かると思う。

 古い旅館を改装したとかで,遺された梁や柱に確かに年代を感じる。なかなかだったが,最近の店の造りは,
テーブルの照明が妙に暗かったり,メニューの名前がやたら長かったり,靴を脱いで個室に押し込められたりと,あまり気に入らない。

 このところ,北口にそんな新しい飲み屋がぽこぽことできていて,妙に激戦区になりつつある。
南の方が飽和状態になってきたということなのかな。大学に近いのでそれはそれで嬉しいことではある。

 確かに,北12条から札幌駅までの間ってお店の選択肢がそれほどない空白地帯だったんだよね。18条の方へ北上するか,
駅回りをぐるぐるするしかない。大通り~すすきのまで行ってしまえば選び放題なんだけど。

 ぼくが大学と12条駅近辺で行くとしたら,「我ん坊」(2年ぶりだねと言われた),「鳥源」
(美唄風焼き鳥が食べられる数少ない名店),「松」(最近とんとごぶさた)である。ちょっと離れるが「かんろ」(最近ごぶさた)も良いし,
駅まで行ってしまえば「味百仙」(日本酒のそろえがすばらしい)が良い。

 これらのお店はどこも10年以上この地でがんばってきた老舗である。最近のお店も新しくていいけど,やはり落ち着くのは古いお店だ。
これからもがんばっていただきたい。

 ところで,札幌駅に注目が集まり,静かな激戦区になりつつある今,ぼくが注目しているのはお隣の駅,桑園である。

 なにしろここは,中央市場が近く,おまけに札幌競馬場も近い。市場と競馬場があって,いい飲み屋がないはずがない。いや,
実際にあるのだ。教えないけど。

 特筆すべきは,この駅の立地である。大学の敷地から歩いて3分ほど。なのになぜみな札幌駅の方へ飲みに行くかというと,
どでかい農場をつっきっていかねばならないからだ。

 だけど,道外からのお客さんにとってはこのことは条件さえそろえば悪いことではないように思う。

 たとえば文系の学部で研究会を開き,夕刻頃お開きとなったと想像しよう。学部を西に出てまっすぐ行くと,あのポプラ並木がある。
その並木脇をぬけて,西の山に沈む夕日を眺めながら一面の麦畑の中を歩くのだ。土の香りと葉ずれの音を楽しみながら農場を抜ける。
道路を渡るとすぐに駅に着く。あとは好きな店に入ればよい。街の真ん中で北海道の雄大さをほんの少し味わえるのである。最近やっていないが,
4年くらい前はこんな感じでよく桑園に行っていた。

 夜が更けると真っ暗で用水にはまるおそれがあるし,雨が降るとぬかるんで靴が汚れるし,雪なんか降れば遭難するだけなので,
このコースがベストなのは5~9月のよく晴れた日,夕方6~7時頃である。

サンボア

 大阪で開かれた発達心理学会に参加してきました。

 18日の夜に関空から大阪入り。宿は梅田そば兎我野にある怪しげなビジネスホテル。

 さてさて,夜ともなれば酒場をうろつかねばなりませんね。ホテルのそばにはお初天神があります。その周りはちょっとした盛り場になっていて,天神さまから抜ける小路に小さなお店が軒を連ねている一角があります。そこをふらふらして,鹿児島料理を出すお店にまずは入りました。刺身に揚げたての薩摩揚げ,ビールに焼酎を楽しみます。

 お店を出て二軒目へ。行きたい行きたいと思っていたバー,「北サンボア」へ入りました。外見からして歴史を感じさせる趣。というか看板がなければ崩れかけの民家のような。

 ドアを開けると右手にはテーブル席がいくつか,左手にカウンター。カウンターには手すりと足置き用のバー(何て言うんでしょうかね)がつけられていて,立って飲むようになっています。太田和彦先生曰く,これが本式だとのこと。

 ジントニックをもらいます。おつまみはピーナツ。

 カウンターの中には蝶ネクタイを締め,口ひげを生やしたご高齢のマスターと,その息子さん。息子さんの方に話しかけます。

「サンボア」と名のつくバーは,北新地や京都,銀座にもありますが,その源流は神戸にあったそうです。神戸のサンボアはもうなくなってありませんが,そこで修行をされた方がのれん分けをされて,最初に3つの「サンボア」が各地に開店しました。そこからさらに何人かが独立していき,現在のようになったとのこと。最初にのれん分けされた3軒のひとつが北サンボア。ここを始められたのは,現在のマスターのお父様,話をしてくださった息子さんのおじいさんだそうで,三代にわたってお店を守ってきたことになります。

 サンボアの名の由来もうかがいました。なんでも,神戸の最初のお店の名を,柑橘類の「ざぼん」の語源となったオランダ語「ザンボア」にする予定だったそうなのですが,「Zamboa」の”Z”を看板屋が”S”とひっくり返して書いた。それを神戸の初代がおもしろがり,そのままお店の名としたとのこと。

 現在のお店は建ててもう60年ほどになるようで,店全体も中の調度もほぼ開店当初のままだそうです。可能な限り,残していってもらいたい,貴重な文化遺産のようなお店でした。

繁華街から徒歩40分

 札幌もだいぶ日が温んできて、駐車場の氷もすべて溶け、路肩にうずたかく積まれた雪だまりも徐々に縮んできている。
跳ね上げられた泥水ですっかり黒くなった車を洗いに行った。さっぱりとした姿になった。タイヤの履き替えはもう少し様子を見なければ。
油断していると4月でも降るのが札幌である。

 温かくなり、夜歩いていても凍死する心配がなくなったというのは有り難い。冗談のような話だが、
日中でも吹雪けば遭難するとまことしやかに言われる札幌ではありえることだ。

 ゆうべは仕事でこの3ヶ月間お世話になったIさんを誘い、慰労のための飲み会をすすきので挙行。

 地下鉄南北線すすきの駅改札出てすぐの地下街入り口付近(ロビンソンという百貨店の地下入り口に面しているので、通称「ロビ地下」
と呼ばれる)にて待ち合わせ。ここは待ち合わせ場所として有名なのだが、昨日はものすごい人混みであった。卒業式、送別会、修了式などなど、
シーズンのさなかの土曜であるからおかしくはない話だ。

 件のIさんを見つけられるかと危ぶんだが、あっさりと発見。地上に出て、「金富士」に入った。

 生ビールで乾杯し、「これとこれとこれ」と注文しまくる。今夜はどうも大混雑のようで、われわれが座っていたテーブル席は相席。
それでもいっぱいとなり、数組の客が引き戸を開けて中をのぞき込んだ後無言で去っていった。腹一杯になるまで飲み食いし、二人で4780円。

「洋酒が飲みたいですねえ」というIさんのご要望にお応えし、バー「夜光虫」へ。ここは友人のMさん夫妻御用達のお店であり、
教えてもらってから何かあると通わせてもらっている。先日Mさんが札幌にいらした際にも訪ねていた。

 カウンターの端に並んで座り、ゆっくりと飲む。Iさんとは人生について話し合った。

 結婚云々という話を聞くととたんに嬉しくなって、「なんだ、そうなのかおまえ」「まあ飲め飲め」「で、どうなんだ」と、
「親戚の叔父さんモード」になる。こういう話は好きなのである。

 腹もいっぱいになり、足がふらつく一歩手前でお開き。地下鉄の入り口に消えていくIさんを送り、
酔い覚ましにてくてくと家の方へ歩き始めた。

 夜風がさほど身に刺さらなくなった。ふと立ち止まり、豊平川にかかる二条橋からネオンを振り返る。
橋の下を流れる黒い水のさざめきをのぞき込めば、すいこまれそうである。

 車なら10分もあれば着いてしまうところ、のんびりと歩き、40分ほどかけて到着。

2年半ぶり

 夕食を大学そばの中華料理屋でとった後、久しぶりに、「我ん坊」に行ってみました。中華を食べながらビールを飲んで、気が大きくなっていたのでしょう。ほんの1杯ひっかけて、すぐに研究室に戻るつもりです。

 以前は行かない週はないくらいに足繁く通っていたものですが、このところとんとご無沙汰でした。いったん行かなくなると、ちょっと気まずくなって行きにくくなっていたんです。

 引き戸を引くと、奥から「いらっしゃい」の声。「どうも」と言いながらカウンターへ。先客が2組いたので、ちょっと気が楽です。

「子ども生まれたんだよねえ、そのときに来て、それっきりじゃない」とマスター。

 そう。ここのすぐそばの産院でアマネが産まれ、その日に祝杯をあげに来たのがこのお店でした。あれから2年半、1度も顔を見せずにいたんですねえ。それにしてもマスター、よく覚えてるなあ。しばらく見ない間にあごひげにだいぶ白いものが混じってきたような。

 七夕をお湯割りで、それと、タラ肝甘辛煮をいただきます。

 店内はあいかわらず、阪神タイガースのグッズが所狭しと並べられています。カウンターの上に置かれたテレビからは「愛のエプロン」。居酒屋のテレビっていうのは、一人客には間が持てて助かるんですよ。

「子どもかわいいでしょう」
「今がいちばんかわいいんだよ、って言われるよ」
「いつまでもかわいいもんだよ」

 世間話をしながら飲む酒は久々です。このところ食事はずっと一人でしたから。

「じゃ、行きます。また来ますね」

 2年半ぶりの「我ん坊」。なにより、マスターが覚えていてくれたのが嬉しかったなあ。

円山、三徳六味にて

 円山に移転した三徳六味へ行ってきました。

 移転したのが去年の10月ですから、すでに4ヶ月ほど経っているのですね。その間、ぼくはふらりと1度だけおじゃましました。

 地下鉄東西線円山公園駅から歩いて5分ほど。入り口の引き戸を開けるとアプローチがあり、中の様子が見えません。
くぐり抜けると右手にカウンター席、左手に2間の小上がりがあります。天井からの抑えた明かりに照らされたカウンターに座ると、
美園にあったときと比べて一段グレードアップした板場が一望できます。 おそらく、「以前のお店ではやりたくてもできなかったこと」
をできるようにしたのでしょう、店主夫妻の意気込みが隅々まで漲っています。

 さて本日は、学部の同僚のM先生、学部OBのIさん、OGのHさんにぼくを加えた4名での食事会。
ご飯までついたコースをお願いしておきました。

 初めて通された小上がりには真新しい畳が。

「これは和紙畳というんですよ。あせないし、ほつれなくていいそうです」と、ミキさん。へえ、そんなのがあるんですか。

 まずはめいめい飲み物を頼み、乾杯。OGのHさんは現在関東の方にお勤めで、仕事の話などでひとしきりもりあがります。

 1品目はふろふき大根。柚味噌でいただきます。寒い中歩いてきたので、温かいものが嬉しいですね。

 2品目は百合根の茶碗蒸し。上にそぼろあんがかけてあります。これまた温かくて胃にするすると入っていきます。

 このあたりから記憶が少し心許ないので料理の出てきた順序はあやふやです。それくらい話が楽しかった、ということで。

 温かいものが続いた後で出てきた本日のお造りは、鮪、ホタテなど。ホタテに少し仕事がしてあったように覚えています。

 八寸。ひょうたん型の膳の上に、酒肴が少しずつ載って出てきました。覚えている限りで、胡麻豆腐、鴨、からすみののった菜の花、
とんぶりののったもずく、たたみいわし炙りなど。Iさん曰く、「これには感動しました」。

 さてここからお腹にたまるものの登場です。まずは焼き魚。今日はノドグロだそうです。日本海のものだそうですが、
脂がたっぷりとのって美味しい。

 肉料理は少し趣向を凝らして、牡丹鍋でした。和歌山の猪だそうです。野趣あふれる一品。

 だいぶ満腹になってきた頃、締めの炊き込みご飯ができあがってきました。中身は、たっぷりの野菜とアサリです。土鍋で炊かれたので、
いい塩梅で底の方におこげができて見るからに美味しそう。椀物に鯛のあら汁。香の物を添えていただきます。各人2杯は食べましたか。

 デザートでマンゴーソースののったブラマンジェをいただき、ごちそうさまでした。

 7時半に始まり、ゆっくり話しながら食べていたので、お店を出たのはすでに11時近く。他の3人も料理に満足してくれた様子で、
セッティングした者としてはなによりでした。

UKさんと飲む

 ちょっと前のこと。東京よりUKさんがいらっしゃるとのことで、飲みましょうという話になった。

 UKさんとは大学院時代にいろいろと研究会などでお世話になった。大阪の大学院で日本語教育の勉強をされた後、あちらこちらに行かれ、今は経産省関連の団体にお勤めを始められたそうである。今回は、とある用事で札幌と北見を視察されていくとのこと。

 さて、どこにお連れしようか。

 メールには、時計台そばで5時まで仕事です、とあった。時計台のそばで知っている美味しい店は「こなから」くらいしかない。5時半から予約した。

 スーツ姿のUKさんと待ち合わせ。

「こんな格好でねえ」

 お互い、院生時代の姿しか記憶にないので、苦笑しながら歩いた。

 ビルの細い階段を上った2階に店がある。引き戸を開けると、どうも我々が口開けのようだ。「こなから」は3度目。以前食べた亀の手が忘れられない。

「さて、なんにしましょうかねえ」

 メニューからUKさんに選んでいただく。鮭児のハラス、それに鰯を刺身で。コマイの卵の醤油漬けなんてのもいきましょう。北海道らしいし。

 ジョッキを打ち合わせ、ぐいぐいと飲み干しながらお互い近況報告。なるほどそんなお仕事をされているのですか。お、空きましたね。では酒にしましょう、これとこれね。つまみはと、酒盗クリームチーズとタチぽんをお願い。

「相棒が今、今日の仕事先のみなさんと飲んでいるんですが、いっしょにどうですか」

 飲みながら、UKさんからお誘いを受ける。おもしろそうなので、一も二もなく賛同。ごちそうさまでした。

 そんなわけで二次会は、札幌駅西口高架そばのJR55ビル内にある「Suntory’s Garden 昊」。すでに盛り上がっていたところ、UKさんといっしょに紛れ込む。

「北大の伊藤と申します」
「はじめまして、○○の○○と申します」
「どうぞよろしく」
「こちらこそ」

 名刺のやりとりのあと、ようやく落ち着いてビールを乾杯。

「教育学部でしたら○○さんはご存じですか」
「はいはい」
「実は○○さんにはこれこれでお世話になって」
「ええ、そうなんですか?」
「よろしくお伝えください」
「いやあ世界は狭いですなあ」

 大学にいると見えない世界が厳然とそこにある。商売をされる方のフットワークの軽さ、行動力、先を見通す目、覚悟。北海道という不況のただ中からなかなか抜け切れない地で商売をするということ。

 お開きになった後、UKさんと落ち着いて飲み直しましょうということですすきのまでてくてくと歩く。大通公園には雪像を造るための枠組みができていた。

 ふところもいよいよ心許なく、こういうときは最近通わせてもらっている「金富士」である。とにかく安い。キャバクラの入ったビルの入り口を開けて地下に潜ると紺地に白字の暖簾が待っている。

 相も変わらず盛況の様子だが、カウンターがすいていた。並んで座る。ここに来たら酒は男山しかない。UKさんは冷や(常温のことである)、私はお燗してもらう。

 妙な具合に盛り上がり、深夜1時まで話し込んだ。

「研究会をやりたいですね」
「やりましょう」
「やっぱりこういう仕事してると勉強する時間が」
「そうそう」
「読みたいのがあるんですよ」
「なんでしょう」
「最近はハーバマスですね」
「いいですね、やりましょう。いやいや、ぜひやりましょう。決めましたからね」
「温泉につかりながら」
「いいですなあ」
「実は2月頭が空いているんです」
「手帳に書いちゃいましたよ」
「絶対ですよ、やりますからね」

 堅く手を握りあい、次の日北見に行くというUKさんと別れた。それぞれお銚子2本ずつ飲み、焼き物もひととおり頼んで、勘定は二人で二千円ちょっと。やはり安い。

 1日たって、酔いの覚めたUKさんから、6月か7月にしませんかとメールが。私もそれがいいと思います。

 というわけで、今年の夏は北海道でハーバマス『コミュニケイション的行為の理論』を読むことにしました。興味のある方はぜひご参加ください。