戒厳令都市

 もうすぐサミットである。

 それに合わせて,全国から警察関係者がぞくぞくと千歳~札幌界隈に参集しているようだ。

 先日長崎に行くのに空港に行くと,神奈川県警の警察官が立っていた。空港の外の道沿いには,
10メートルごとに棒を持った警官が立っている。えっちらおっちらと自転車で走り回る方もいた。

 昨日サクランボ狩りに行く道すがら,対向車線をあちらからやってきたのは島根県警と静岡県警のパトカーとバス
(と言うのか何と言うのか)。10台ではきかない。次々と向こうからやってきては走り去っていく。

「きっと,新潟経由で小樽に着いたんだよ」
「『北海道は涼しいねえ』とか言いながら定山渓で総決起集会でもしてたんじゃないか」
「『お前北海道行くの,うらやましいなあ』とか言われて送り出されてきたんだよ」

 想像はたくましくなる。もちろん,お巡りさんは私たちの安全を守るというお勤めを果たしにわざわざご足労いただいているのであり,
ちゃかすのは大変失礼である。が,人間というのは真剣な中に遊びを見つけるものである。
上のような想像の会話も強ち間違いではないのではないか。

 その帰りには岩手県警のパトカーに会った。九州からの増援は見ていない。前の沖縄サミットの時に駆り出されたからか。

 来週は札幌市内の大部分の交通が規制される。おそらく,地下鉄にも相当数の警備が割かれるだろう。
その期間だけでも自転車で通勤しようか。

さくらんぼと詩人

 朝から家族で果物狩りに行ってきました。

 自宅から車を30分ほど走らせると,温泉街として知られる定山渓への道沿いに果物狩りの看板が立ち並んでいます。その中の1軒, 篠原果樹園におじゃましました。

 山腹を利用した農園で,一番高いところからの眺めが美しい。

P1020529.jpg

 本日のお目当ては,サクランボ。果樹園の公式ホームページに,29日からサクランボ解禁とあったので,これ幸いと出かけてきたのです。アマネは,お気に入りの手押し車を持って行くと言ってききません。以前,栗拾いに行ったことがあるのですが,それと勘違いしているのでしょうか。

 サクランボの木が植えられている一角にたどり着く手前に,いちご畑がありました。果樹園を経営されるご家族の奥さんが,「いちごがまだあるから食べて行きなさい」と案内してくれます。大粒のいちごを採ってアマネに手渡してくれました。食べてみると,おお,甘いですねえ。

P1020505.jpg

 いちご畑から続く斜面には,プラム,リンゴ,プルーンなどの木が植わっています。さらに登ると,赤い実をたわわに実らせたサクランボの木がたくさん。たくさん実って,枝がしなっています。これは食べがいがあります。木のそばのはしごに登って,上の方になっているサクランボをもいでむしゃむしゃ。アマネにはタネを取ってあげていたのですが,タネだけ抜いて食べることを覚えたようで,ひとりでむしゃむしゃと食べています。

P1020524.jpg

 いろんな品種があったのですが,今回いただいたのは佐藤錦,秀ヶ錦,それにアメリカンチェリー。どれも甘くておいしかったですよ。家族3人合わせて80粒くらいは食べたのではないでしょうか。

P1020519.jpg

 1本の木にこれでもかと実っていたのですが,それでも,今年の天候不順で,だいぶ不作なのだそうです。例年CMを流すような果樹園も,今年はそれを控えているほどなのだとか。案内してくれた篠原さんご一家みなさん口々におっしゃいます。いやあそれでも露天でこれだけおいしいのができれば十分じゃないでしょうか。

 入園料は大人一人800円,2歳以下は無料。持ち帰りは別途お金がかかりますが,十分元を取ったと思います。なにしろ,佐藤錦なんてお店で売っているのを買うと高いですからねえ。

「ハンバーグ食べたい」というアマネのリクエストを容れて,お昼はびっくりドンキーへ。いったん帰宅。

 午後からぼくは,中島公園にある北海道立文学館へ行きました。札幌は6年目になりますが,ここは初めてです。

 今月末からここで,詩人の吉増剛造さんの展覧会が開かれているのですが,それに合わせていくつかのイベントが予定されています。そのうちの一つ,「言葉のざわめき,おとのねにおりてゆくとき」を拝聴したかったのです。

 鼎談なのですが,メンバーがぼくとしては豪華。吉増剛造,工藤正廣,そして柳瀬尚紀!工藤先生は元北大の教授で,パステルナークなど,ロシア・ポーランド文学がご専門。実は一度だけ教授会でお見かけしたことがあります。柳瀬尚紀先生は英米文学の翻訳家として有名ですが,ぼくのなかではヒーローのような方。なにしろジョイス『フィネガンズ・ウェイク』を翻訳されたわけですから。このブログの名前の由来になったこの作品,高校の時に柳瀬先生の翻訳で読み,衝撃を受けました。このときに,ゆくゆくは詩の研究をしたいと思ったものです。

 吉増剛造の作品は,何度か「ユリイカ」に載ったのを読んだことがありますが,「つぶやき」が多いなというのが第一印象。それと,連想の速度がタイポグラフィをたたきつけるその慎重さに独特のものを感じました。なんだか評論家然として偉そうですね。

「おみやげ」として吉増さんが午前中に書き上げたという,なんでしょうかね,これは。手書きの口上と詩や文章のコラージュ,というか,バロウズ風に言えばカットアップのコピーをいただきました。

P1020534.jpg

 さて,お三方の登壇を前から2列目の席で待っていると,会場の後ろから,車いすに乗ったご老人が入ってこられました。私の目の前,つまり最前列のイスは空いていたのですが,スタッフの方などがそのイスを運び出してそのご老人が空いたスペースに陣取られました。白髪頭の上に黒いニット帽を載せた,温厚そうな男性です。

 間もなく,司会の方が開会の言葉を始めました。「…今日は山口昌男先生もいらしてますが,どちらでしょうか…。」

 ぼくの隣に座った方が,目の前の車いすのご老人を指さします。ひええ,山口先生だったんですか。驚きました。どうも話を伺っていると,吉増剛造さんとは旧知の間柄のようで,今回の展覧会の開催にもかかわっておられるようです。結局終わりまで,ぼくは山口昌男先生の背中と後頭部を見ながら鼎談を聞くことになりました。

 さてその話ですが。

 やはり,柳瀬先生がいるということで,ジョイスの話から始まりました。羽生善治が永世名人になったことに話が及ぶと,その羽生さんの天才ぶりについて,柳瀬・吉増の両氏から感嘆の声が上がります。なんでも,北海道新聞主催の大会に羽生さんが来るそうで,その機会に札幌まで呼んで文学館で何かしようという話も出ました。

 タイトルの「おとのねにおりてゆくとき」から「根の国」を連想した吉増さんが,「北海道は根の国である」と宣言。一方で,工藤先生が「柳田國男は北海道に来たが,折口信夫は青森で引き返した」ことに触れ,「別の根の国」という言葉が出されました。それに対して「確かに折口は大阪のミナミから南へ行ったんだ」と吉増さんが返し,「じゃあ」と,折口信夫の詠む歌をテープにかけてくれます(録音なんて遺っているんですねえ!)。その声は,確かに「北海道に来なかった」という前段を受けてから聞くと,そのように感じさせるものでありました。

 吉増さんは「宝」と呼んでいたのですが,お手持ちのカセットテープの録音を聞かせてくれたのが嬉しい。与謝野晶子(遺ってるんですねえ),寺山修司,アイヌのおばさん,ジョイス,エセーニン,パステルナーク。

 「耳だって修練しなきゃだめですからねえ」
 「声は記憶の重なりでできてんです」

 とは吉増さんの言葉。

 声をめぐる,詩人と翻訳家の鼎談というか雑談をそばでながめていた,そんな充実した2時間を過ごしました。

長崎ぶらぶらぶらりんこ

 家族で梅雨まっただなかの長崎空港に降り立ったのは夕刻6時過ぎ。ラゲージクレイムのガラス越しに義父を発見したアマネは
「じーじー!」と叫びながら自動ドアを駆け抜けていきました。

 車で自動車道を通り長崎市内へ。空港から長崎に入るのは何年ぶりでしょう。やたらと九州大学で学会があった年があったのですが,
そのときは福岡から「かもめ」に乗って行ったのでした。

 リンガーハットで夕食。アマネはここの餃子がお気に入りで,2皿くらいはぺろりと食べます。

 夕食後,まっすぐ妻の実家に帰宅…とはいかず,私はここで家族ともお別れ。市内の浜屋というデパート前で車から降ろしてもらいます。
なぜか。

 思案橋横丁を探索するためなのです。

 かつての長崎といえば,三大遊郭のあったという地。その丸山に行くために渡ったという思案橋。彼の地へ「いこかもどろか」
と思いめぐらせたことからその名がついたといわれる,情緒ある町です。

 その思案橋には飲み屋が建ち並んでいますが,その数軒をめぐってみようというのが,今回の私の長崎行きの1つの目的でした。
家族には無理を言ったと思っていますが,ほんとに楽しみだったのです。

 浜屋前から路面電車の線路を渡り,すぐに折れると思案橋横丁と大書された看板のまぶしい小路が。さて,どうしましょうか。

 てくてく歩くと縄のれんのかかったおでん屋さんがあります。「桃若」というんですが,横丁のなかでもとても古いお店,
太田和彦先生もご推奨の一軒です。やはり一番行ってみたかったここから始めるとしましょう。

 引き戸を開けると「いらっしゃい」とおかみさんが声をかけてくれます。入り口の右手に小上がり,正面にL字型のカウンター,
その角におでんが温まっています。カウンターにはカップルが1組とおじいさんが1人。「荷物預かりましょう」
と背中の荷物を持ってくれました。

 どこから来たんですか,おかみさんの言葉に「札幌から」と答えると,店のなかの雰囲気が一瞬変わりました。「ああそう,観光で?」
とはおでんを箸でつついていたご主人。「ええまあ」と生返事。

 まずはビールをもらいましょう。キリン,アサヒ,サッポロから選べるようですが,ここはやはりサッポロで。「どうぞ」
とご主人についでいただきました。飛行機を千歳から羽田,羽田から長崎と乗り継いできたので疲れていたのか,おいしいですねえ。

 「何にしましょう」とご主人。うーん,と悩んでいると,これとこれが沈んでいて,これがうちで手作りで,と教えてくれます。では,
その,それとそれといただきます(何を食べたのか正確には忘れてしまいました。確か,豆腐,ぎんなん,根昆布,大根,
すり身その他を食べた気が)。おでん屋に行くのはあまりないのですが,なかなかいいもんですね。梅雨の長崎,結構肌寒く,
温かいおでんがありがたい。

 ご主人とおかみさん,それに奥から息子さんが出てきて,いろいろと話しかけてくれます。
カウンターに座っていた他のお客さんも親身に話しかけてくれて,とても居心地がいい。

 「ここはどうしていらしたんですか」とご主人が尋ねるので,「その本で」と。ご主人の背にある棚に,太田先生の「居酒屋味酒覧」
のポスターが貼ってあったんですね。それを指さすと,おかみさんが「この本を読んで来られる方は,男性の1人客が多いですね」と。
「本当に有り難いことです」と嬉しそうでした。

 いつのまにかカウンターの上に枇杷の箱が置いてあり,「今年のは甘いですかね」と,おかみさんが一つくれました。

 小さいお銚子を2本空けて,他のお客さんがみな帰り,1人きりになった頃にお勘定をしていただきました。ごちそうさま,
噂にたがわぬ良いお店でした。では,次に行きましょう。

 思案橋横丁からさらに路地に入ったところにひっそりとある「こいそ」。ここも件の本に載っていたお店です。
路地に面した生け簀から店のなかの様子をのぞきますが,カウンターにはすでに先客あり,なかなかにぎやかそうです。では,入ってみましょう。

 引き戸を空けると,右手にカウンター,左手にテーブル席と,奥に小上がりがあります。カウンターには大皿が何種類も。
これは期待できそう。カウンター奥に陣取り,まずは生ビールをもらいます。

 大皿のなかに目がいきますねえ。「これは何ですか」とカウンターのなかを忙しく立ち働いていた娘さんに尋ねると,
「キビナゴの炊いたんに,これはいろんな魚の骨を揚げたもの,出すときには二度揚げします」。「あ,じゃあそれとそれ」と即決。

 キビナゴは甘辛く煮付けてあり,いい味。骨せんべいもいいですねえ。せっかくの九州,ここらで焼酎を飲みましょう。麦のお湯割りを。

 ご主人に,お母さんでしょうか,カウンターに出てきていただいて,いつの間にか長崎水害の話に。
「この辺は150㎝くらいは水が来たんですよ」と,目の高さくらいのところをご主人が指さします。

 さてそれではここらでしめにかかりましょう。しめですから,壁にかかっていた短冊で気になっていた〆鯖をいただきます。それと,
大皿のなかにあった,すじ肉のポン酢かけを小皿に盛ってもらいましょう。もう一杯お湯割りをいただいて,ごちそうさま。

 さて,ここから妻の実家に帰らねばなりません。正気を保っているあいだに,路面電車に乗り込みます。どこまで行っても100円とは,
見上げた電車ですねえ。どっかの市電には見習っていただきたいもの。西洋館の前をすぎた頃から,電車の揺れに気持ちが悪くなってきました。
酔い覚ましに,ちょっと降りて歩いていくことに。長崎大の前で降り,終点の赤迫まで雨の中歩きます。最後は義父に迎えに来ていただきました。

 長崎の夜はまだまだ奥が深そうですが,またの機会に。

 なお,次の日二日酔いで半日寝ていたことは秘密であります。

いい人だなあ

 13日の金曜日の出来事。

 午前中は非常勤。粛々とこなす。

 午後から大学に戻り,一息ついて教授会。4時間座りっぱなし。とても大事なことが話し合われていたので中座するわけにもいかず。
何が話し合われていたのかは,もちろん書けない。

 6時半に終わり,島本和彦先生講演会へ。先月から延期されていた第2回である。

 5時から6時半までという予定だったので,もう質問コーナーも終盤にさしかかっていた。教室の後ろからすべりこむと,
なにやら冊子を配っているところ。私も1冊受け取る。

 島本和彦の「一年中仕事カレンダー」!どんなものかは,ご本人のブログより
(下の方ね)。

 どうもいただけるものらしい。ありがとうございます。島本先生,いい人だなあ。

 さて,土曜から月曜まで,長崎に行く。メールも見ない予定。

ハーバーマス読書会のお知らせ

 下記の要領で読書会を開きたいと思います。神吉宇一さんの発案を受けまして,
共同で開催するものです。

 ハーバーマス読書会

 読む本: 「コミュニケイション的行為の理論」
 日時: 7月20日13時~ 21日9時~
 場所: 北海道大学 人文・社会科学共同教育研究棟 W518 地図

 2日間かけて,ハーバーマスの主著「コミュニケイション的行為の理論」を読みます。

 ご関心のある方はどうぞおいでください。その際は,レジュメを準備する関係上,下記連絡先までご一報くだされば幸いです。

 また,レポーターを引き受けてくださるという方を熱烈歓迎いたしますので,同じく下記連絡先までご一報ください。

 伊藤崇: tito [at] edu.hokudai.ac.jp (メールされる場合は[at]を@に直してください)

 以上でした。