The oaks of ald now they lie in peat yet elms leap where askes lay. Phall if you but will, rise you must: and none so soon either shall the pharce for the nunce come to a setdown secular phoenish.
古き樫らはいま泥炭の中に眠るが、トネリコ男のいるところでニレ女が萌えいずる。転んだにしても、起きねばならぬ。そしてまだ先だがさしあたっての茶坊主劇は堅気に終わるだろう。
The oaks … lie in peat: 泥炭の中で保存された木のことを、bog-oakと呼ぶ。オーク、つまり樫の木でなくても、こう呼ぶようだ。日本語では、「神代」(じんだい)とか「埋もれ木」とか呼ばれるものに相当する。
The oaks … askes lay: この文には、ヨーロッパで聖なる木として崇められた植物、すなわちoak、alder、ash、elmが埋め込まれている。
ald: alder(ハンノキ)、old。
lie in peat: lie in peace(安らかに眠る)
elms leap where askes lay: 北欧神話では、最高神オーディンが最初の人間を造ったことになっている。トネリコ(ash)からアスク(Askr)という男が、ニレ(elm)からエンブラ(Embla)という女が造られた。
Phall … must: この一文は、ジェイムズ・マクファーソンJames Macphersonによる詩『フィンガル』(Fingal)"の一節"If fall I must, my tomb shall rise"に基づく。
phall: fall
"will … must"の対比は、自由意志に基づく非決定論と、必然性に基づく決定論の対比を表す*1。とすると、落ちるのは意志によるものだが、そこから復活するのは必然ということか。
pharce: farce(茶番劇)
for the nonce(さしあたって)
the nonce come to setdown secular: secular(俗人)をcome to setdown(降ろしに来る)のだから、nonceはnuns(尼僧たち)でもあるだろう。
phoenish: Phoenix (不死鳥、フェニックス・パークのことも指す)、finish。
*1 McHugh, R. 1980/91 Annotations to Finnegans Wake. Johns Hopkins University Press.