文化庁が毎年開催しているメディア芸術祭の企画展が札幌芸術の森を中心に行われている。関連していくつかのシンポジウムも企画されていた。
30日に「つながりの中のネットアート」と題されたシンポジウムがあったので出かけた。
シンポジストは、ナカムラマギコさんと中村将良さんによる夫婦ユニットWho-fu(ふうふ)、首都大学東京の渡邊英徳先生。
まずは渡邊先生のプロジェクト紹介。先生の研究室では、Google Earthを使った一連のプロジェクトを展開。共通するのは、Google Earthという「神の視点」の代表のようなものに、具体的な個々人の声や記憶を遺していくというコンセプト。
そのうちのひとつ、「ツバル・ビジュアライゼーション・プロジェクト」は、太平洋の島国ツバルに住む1万人の国民ひとりひとりの顔を文字通りウェブ上で可視化するもの。見るだけでなく、閲覧者からツバルの方々へダイレクトにメッセージを送ることもできる。なんでもアメリカ西海岸にツバルから移住した人が多いようで、そこから知り合いに向けてたくさんのメッセージが送られているそうだ。「いつのまにかSNSとして使われていました」というのが面白い。
もうひとつ紹介していただいた「ナガサキアーカイブ」。かつての長崎の写真をたんねんに集めてこられた方がご高齢になりどのように未来に遺していくか問題になったときに、生まれたプロジェクト。記憶をテーマにしたプロジェクトとして、現在は広島版と沖縄版も進行中だそうだ。
続いてWho-fuのお二人に、昨年のメディア芸術祭エンターテインメント部門で大賞が授賞された作品「日々の音色」についてお話ししていただく。
昨年これを見ておおいに感動したので、制作の裏話についてうかがえたのがとてもよかった。制作には3ヶ月かかったとのこと。登場する84人(Who-fuの知り合いと、SOURのファン)にWebcamの前でやることについて具体的に指示を出して、撮影されたものをFinal Cut ProとAfter Effectsで編集。その作業にご苦労されたそうだ。84人全員の名前がクレジットされた貴重なデモムービーも見せていただく。
今回のお二人の作品はいずれもウェブによるつながりというのがコンセプトの一部になっている。シンポジウムのタイトルにあるように、実際の人々のつながりのなかでウェブというのが機能するというかたちになっていて、ウェブによるつながりだけで閉じて満足するという話にはなっていないのが確認できてよかった。