日曜の夜、サッカーW杯日本代表戦がおこなわれているちょうどその頃、私は救急車の中にいました。
生まれて初めて乗る救急車でした。が、わりと落ち着いていました。それもそのはずで、私は付き添いだったのです。
当事者はアマネでした。
日曜の昼間、妻の友人の結婚式に出ていたアマネは、どうもひどく疲れていたようで、風呂上がりに飲んでいたおっぱいを、
夕食とともにすべて吐いてしまいました。それはもう、温泉の湯の吹き出し口のよう。
これで親がとても心配になってしまいました。寝かしつけてもすぐに泣いてしまいます。あやすと、しばらくは落ち着くのですが、
しばらくするとまたひどく泣き出します。
「腸重積かもしれない…」
妻が心配そうにアマネを抱きかかえてそう言います。腸重積とは、腸同士が入れ子になってしまう病気で、
へたをすると入り込んだ部分が腐ってしまいます。「家庭の医学」などを読むと、親が知っていなければならない病気の1つなのだそうです。
こうして、電話をかけて5分後に到着した救急車に、親子3人で乗り込んだのでした。行き先は、札幌市夜間急病センターです。
深夜の札幌の街を救急車は特急のごとく駆け抜けます。3人の救急隊員は事細かにアマネの病状を尋ね、妻がそれにてきぱきと答えます。
で、当のアマネはというと、目をまん丸にして親や隊員、救急車内の設備をかわるがわる見ています。泣くのはとうにやみ、
なんだかおとなしくなってしまいました。
「元気だね」「ひきかえす?」「ここまできたのに」
家の中ではあんなに心配していた両親ですが、車内できょとんとしているアマネを見て、急に力が抜けてしまいました。
10分ほどでセンターに到着しました。
隊員の先導で、センター内の待合に入ります。5分ほどで小児科に呼ばれました。小太りの、
優しそうな感じの先生が机に向かって座っていました。これまでの経過をひととおり説明した後、聴診をしてもらいます。
すでに何度か注射を経験していた彼は、何かされると思ったのか、ぎゃあと泣き始めました。
「まあ元気だね、よかったよかった」
けっきょく、なんでもなかったようです。親の早とちりに呆れることなく対応してくださったお医者さんや救急隊の方々に深く感謝です。
タクシーで帰宅すると、まだサッカーの試合が続いていました。夜中に救急車にタクシーと、2つも乗り物に乗ったためかどうなのか、
アマネはずっと興奮し通しで、けっきょく寝ついたのは日が変わってからでした。
ところで、子どもの不調が果たして病院にかからねばならない程度のものかどうか判断つかない場合など、
札幌市には電話で看護師と相談するための窓口があります。「小児救急電話相談」
がそれです。こういうものが存在することを、恥ずかしくも、センターの待合室で知りました。
…今度からは、最初にこれを利用します。