The great fall of the offwall entailed at such short notice the pftjschute of Finnegan, erse solid man, that the humptyhillhead of humself prumptly sends an unquiring one well to the west in quest of his tumptytumtoes:
塗り壁の崩落はあっと言う間にしっかりした奴フィネガンのつつーい落を引き起こし、そのこぶ丘頭がずんぐり足っちょを探しにずいぶん西へと探し物好きを送り込む。
前の1文から、転落のモチーフが続く。ここでようやく、本のタイトルにあるフィネガンの名が出てきた。
彼はアイルランド民謡’Finnegan’s Wake‘に登場するレンガ職人ティム・フィネガン(Tim Finnegan)。ヨーロッパには、アイルランド人はみな酒好きというステレオタイプがあるが、彼も噂に違わず酒が好き。ある日酔っぱらってハシゴに登ったため、そこから落っこちて、頭をかち割ってしまう。
死んだと思った知り合いは、ティムを囲んで通夜騒ぎ。アイルランドの通夜(Wake)では集まった人で酒を飲み、死体を囲んで賑やかに宴会をする。ある人が飲んでいた酒をあやまってティム・フィネガンにこぼしてしまう。するとティムさん飛び上がり、「やあ、死んだと思ったんかあ!」
Joyceは、この歌から「死と再生」のモチーフを借りて、FWの中に溶かし込んだ。民謡のタイトルからアポストロフィを取り去ることで、たった一人の死と再生ではなく、あらゆるフィネガンたち(Huckleberry Finnや、Fin MacCoolなどのFinnたちも含めて)の死と再生の物語へと回路を開いたのである。
offwall: off the wall(奇妙な)、Wall Streetの外(Off Broadwayと似たようなもの)?
entail: イギリスの法律用語で「限嗣相続財産」。en(~にする) + tail(尾)、「結果として~という状態にする」といった意味か。
at such short notice: 強調のsuch + at short notice(急いで)
pftjschute: pftjs + chute(フランス語で「落下」)。フィネガンの転落する擬音。
erse: Erse「(スコットランド系の)ケルト族の」。
solid man: アイルランド民謡、‘The Solid Man’。ミュージック・ホール歌手William J. Ashcroftによって一般に広められた*1。
humself: himself、hum(ブツブツ言う、鼻歌を歌う)。
prumptly: promptly(急いで)、plump(まるまる太った、ドスンと落ちる)。
humptyhillhead … tumptytumtoes: hとtの頭韻。
head(頭)とtoes(つまさき)が見えるが、これはダブリンの地下にまどろんで横たわると言われる英雄フィン・マクールFinn MacCoolのもの。ホウス岬がその頭だとする伝説がある。頭をホウス岬とすると、足先はダブリンの西にあるフェニックス・パーク(Phoenix Park)にあたる*1。この公園の名の由来は、アイルランド語の"Fionn Uisce"(透明な水)。園内に泉があったことから。ということは、wellには「井戸」の意味もあるか。
Humpty Dumptyも見える。民謡ではティム・フィネガンがハシゴから落ちたが、ここの1文ではマザーグースに出てくるハンプティ・ダンプティが、塀の上から落下する。
humpy(こぶだらけの)、dumpy(ずんぐりした)。
unquiring: enquiring(取り調べ) 。
in quest: inquest(査問)、in quest of(~を探して)。
*1 McHugh, R. 1980/91 Annotations to Finnegans Wake. Johns Hopkins University Press.