FW1 12-14

     Rot a peck of pa’s malt had Jhem or Shen brewed by arclight and rory end to the regginbrow was to be seen ringsome on the aquaface.

 ジェムかシェンがアーク光のもとでパパのモルトをたっぷり腐らせ醸造し終えると、真っ赤な虹が水面に円く見えようとしていた。

 a peck of … malt: "O, Willie brew’d a peck o’maut"という歌*1

 Jhem or Shen: Jameson
 Shen: shen(中国語の「神」)*1

 brewed: ウィスキーは醸造しない(distillする)。醸造するのはビールだ。ここにはJamesonと並んで知られるアイルランドの酒工場、Guinness breweryが入っていると言うが*1

 arclight: アーク灯。この文の後半にrainbowが見えるので、arc(弧) + light(光)。

 rory: アイルランド語で「紅(red)」*2。roridus(ラテン語で「露でじっとりした」)*1

 rory end to the … :アングロアイリッシュの言葉で、bloody end to the lieは、no lie(本当だよ)*1

 rory end to the regginbrow: At the rainbow’s end are dew and the colour red*2

 regginbrow: Regenbogen(ドイツ語で「虹」)*1、rainbow

 ringsome: ringsum(ドイツ語で「囲んで」around)*1

 この1文には、創世記第9章のイメージがかぶせられている。Joyceはここに関連して、"When all vegetation is covered  by the flood there are now eyebrows on the face of the Waterworld"と書いている。水の世界の顔に眉?水面に映った虹のメタファであろうか。
 ノアは洪水がひいた後、葡萄を作ってワインを醸造(brew)する。
「爰にノア農夫となりて葡萄園を植ることを始しが 葡萄酒を飲て醉天幕の中にありて裸になれり」(創世記第9章20節~21節)
 arclightにはArk(ノアの方舟)が見える。
 rainbowは、神とノアとの契約の証でもある。
「神言たまひけるは我が我と汝等および汝等と偕なる諸の生物のあいだに世々限りなく爲す所の契約の徴は是なり 我わが虹を雲の中に起さん是我と世とのあいだの契約の徴なるべし」(創世記第9章13節~14節)
 aquafaceは洪水の水面でもある。


*1 McHugh, R. 1980/91 Annotations to Finnegans Wake. Johns Hopkins University Press.
*2 Ellman, R. (Ed.) 1976 Selected letters of James Joyce. Faber and Faber. pp.316-7

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA