【学会】日本認知科学会第40回大会に参加しました

2023年9月7~9日の日程で,公立はこだて未来大学で開催されていた認知科学会第40回大会に参加してきました。

私のお役目はプログラム委員会の立ち上げから始まっておりました。開催校の委員の先生が主導して行う下記の作業にSlackを通して微力ながら参加してきました。
・プログラム委員集め
・大会キャッチコピーの作成
・プログラム編成
・発表予定者への対応
・昼休みや懇親会での飲食の準備

そんな中で私もしっかり絡んで進めてきたのが,プログラムの中の1つの企画「特別企画 明和電機トークセッション:ご当地ゴムベースができるまで」でした。

オタマトーンでおなじみ明和電機の土佐信道社長が,函館を中心とする道南のスギなどの木材を使って作った楽器ゴムベース。その仕掛け人がはこだて未来大でデザインを教えられている原田泰先生でした。原田先生が道南材を使ったものの制作を,すでに何度かコラボしていた土佐社長に持ちかけました。実際に木材加工を担当するのが,函館市内に工房を開いて家具を作る鳥倉真史さん。この3人がコロナ禍で直接会えない中,オンラインで相談しながら楽器ができていくプロセスを語ってもらうのが今回のトークセッションの中身です。私の担当はトークセッションの司会(タイムキーパーとも言う)でした。

もちろん明和電機といえば製品を使ったライブです。思いがけず,ミニライブもしていただけることとなり,20年以上明和電機のおっかけをしていた身としてはライブ設営から関われるとあって有頂天でした。

土佐社長の会場入りからアテンドし,そのまま打ち合わせ。楽屋での楽器組み立ても間近で見ることができました。

ここでトラブル発生。社長が背負うパチモクは明和電機の象徴とも言える楽器で,今回も持ってきていただいていたのですが,楽屋で組み立て始めたところ,なんと動かないことが判明。ドライバでパチモクをバラして呻吟する社長を遠くから眺めることしかできません。

設営の時間となり,とりあえず動く音源ピアメカだけでも会場に運び込むことに。順調にセッティングができていたと思いきや,ここでもトラブル。なんと,これまで壊れたことがなかった音源までもがおシャカに。この時点で本番開始30分前です。またもや遠くから眺めるしかできない私。

とはいえ,ショウマストゴーオン。本番は無慈悲に始まります。もとい,私が司会なので,私が始めます。「明和電機代表取締役社長土佐信道さんです,どうぞ!」と噛まずに言うことができました。

オタマトーン,オタマミン,ゴムベース,スシビート,新製品のボーンバーの紹介に続いて,ゴムベースを使った歌を一曲。音源が使えないので,プログラム委員のO先生が発泡スチロールをボーンバーで叩き,不詳私がオタマトーンで(!)シンバルを叩く即席人間ドラムマシンとなりました。夢中だったので気づきませんでしたが会場はいちばん盛り上がった模様。

最後は明和電機愛唱歌「地球のプレゼント」をみんなで歌ってミニライブは終わり。そのままトークセッションとあいなりました。

夜はトークセッションのメンバーに関係者が加わって五稜郭近くで打ち上げ。FAN冥利に尽きる愉しい一日でした!

そうそう。もちろん,研究発表も行っています。
伊藤崇 2023.9.8 子どもの日常生活におけるスマートスピーカ使用の実態 日本認知科学会第40回大会 公立はこだて未来大学

プログラム委員としては,参加されたみなさんがとても愉しそうに研究談義をされていたのがなにより嬉しい。来年は東大で開催だそうです。

【学会】日本発達心理学会第34回大会にて発表します

2023年3月3日~5日の日程で立命館大学いばらきキャンパスにて開催される日本発達心理学会第34回大会にて下記の通り研究発表をいたします。

3月4日(土) 15:00~17:00 イベントホール
4PM2-P-PS26 子どもの家庭生活に埋め込まれたデジタルテクノロジー

現在進めている,家庭における子どもの日常生活実態調査の一部を元に,子どもによるデジタルテクノロジー使用をどう分析するかを議論します。

対面開催される学会での研究発表は実に4年ぶりです。楽しみです。お待ちしております。

地区懇話会の活動をどうするか問題

私が入会している学会に,日本発達心理学会というのがあります。読んで字の如くで,発達心理学に関心を寄せる方々が集まる学会ですね。

この学会の下部組織として国内の各地区ごとに「地区懇話会」がもうけられています。私を含む3名で共同代表を務めているのですが,今年度は不詳私が幹事を務めることと相成りました。

企画を立てて実施すると学会本体から予算をいただけるようなので,今年度は何かやりたいね,という話をしています。共同代表の先生と話をした中で出たり自分で思いついたりしたのは次の3つくらいでしょうか。

その1 院生を中心とした研究発表会
研究のアウトプットを促進するための集まり。夏に開催して温泉地やキャンプ地をめぐる。

その2 難しい本を読む会,あるいは理論的研究の準備をするための語学講座
こちらはインプットを目指すための集まり。なかなか一人では理解がおぼつかない難しめの本を読む。または,洋書を読むのに必要最低限の語学を身につける勉強会。例えば,ピアジェやワロンを読むためのフランス語講座,ヴィゴツキーやレオンチェフを読むためのロシア語講座。

その3 非常勤講師互助会
北海道という地域ならではですが,専門学校や大学などで発達心理学関連の授業をもつことのできる人材不足という問題があります。いきおい,そうした授業は外部の非常勤講師に依存せざるをえません。そうした人材として大学院生は貴重な存在なのですが,いきなり教壇に立てと言われても難しい。そうした非常勤講師1年生となりそうな院生とともに,「発達心理学を教えるとはどういうことか」を考えたり,教える工夫を紹介し合ったりする。

その3は割と必要なのではと思っているのですが,どうでしょうか。

他にもこんな企画はどうでしょう,というご提案があったらお知らせいただければ幸いです。>関係各位

【学会】日本教育心理学会第61回総会に参加します

2019年9月14日~16日の日程で日本大学にて開催される日本教育心理学会第61回総会にて下記のシンポジウムを国立教育政策研究所の山森光陽先生と企画いたしました。 話題提供も担当します。

9月15日(日) 16:00~18:00 3号館3階 3303
JF03 生体情報を用いた教授学習研究の可能性
企画・司会 山森光陽( 国立教育政策研究所 )
企画 伊藤 崇( 北海道大学 )
話題提供 長野祐一郎( 文京学院大学 )
話題提供 神長伸幸( ミイダス株式会社 )
指定討論 河野麻沙美( 上越教育大学大学院 )
指定討論 楠見 孝( 京都大学 )
指定討論 有馬道久( 香川大学 )

貴重な企画だと思いますのでご関心のある方もない方も足を運んでいただけましたら幸いです。

【学会】日本質的心理学会第16回大会に参加します

明治学院大学にて開催される日本質的心理学会第16回大会に下記の通り参加します。

9月21日(土) 10:00-12:00 2号館 2202教室
関係を紡ぐ言葉の力/言葉を紡ぐ関係の力:「言葉する人 (Languager) の視点から心理療法・教育・学習を横断的に捉えなおす
企画・司会:青山征彦(成城大学社会イノベーション学部)・石田喜美(横浜国立大学教育学部)
話題提供:松嶋秀明(滋賀県立大学人間文化学部)・加藤浩平(東京学芸大学教育学部)・松井かおり(朝日大学保健医療学部)
指定討論:伊藤 崇(北海道大学大学院教育学研究院)

私,この学会の会員ではないのですが,いろいろとかかわらせていただく機会が多くなっている気がします。

それにしても,Languagerという視点は面白いですね。おそらく,『鏡の国のアリス』に登場するハンプティ・ダンプティはLanguagerのひとりでしょう。

‘When I use a word,’ Humpty Dumpty said, in rather a scornful tone, ‘it means just what I choose it to mean — neither more nor less.’
‘The question is,’ said Alice, ‘whether you can make words mean so many different things.’
‘The question is,’ said Humpty Dumpty, ‘which is to be master — that’s all.’
Alice was too much puzzled to say anything; so after a minute Humpty Dumpty began again. ‘They’ve a temper, some of them — particularly verbs: they’re the proudest — adjectives you can do anything with, but not verbs — however, I can manage the whole lot of them! Impenetrability! That’s what I say!’
‘Would you tell me please,’ said Alice, ‘what that means?’
‘Now you talk like a reasonable child,’ said Humpty Dumpty, looking very much pleased. ‘I meant by “impenetrability” that we’ve had enough of that subject, and it would be just as well if you’d mention what you mean to do next, as I suppose you don’t mean to stop here all the rest of your life.’
‘That’s a great deal to make one word mean,’ Alice said in a thoughtful tone.
‘When I make a word do a lot of work like that,’ said Humpty Dumpty, ‘I always pay it extra.’

Through the Looking Glass, by Lewis Carroll

【告知】連続読書会開催します

質的研究のための理論入門―ポスト実証主義の諸系譜
プシュカラ プラサド
ナカニシヤ出版
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読むもの:プシュカラ・プラサド 箕浦康子(監訳) (2018年)『質的研究のための理論入門』ナカニシヤ出版

第1回 2018年 5月10日 企画趣旨説明
第2回 2018年 5月24日 1章,2章,3章
第3回 2018年 6月 7日 4章,5章,6章
第4回 2018年 6月21日 7章,8章,9章
第5回 2018年 7月12日 10章,11章,12章
第6回 2018年 8月 2日 13章,14章,15章

ご参加の場合は,あらかじめ tito@edu.hokudai.ac.jp までご連絡いただけると助かります。

【告知】Japan All Stars国際ワークショップ2017 「日本におけるパフォーマンス心理学の未来」

掲題のワークショップが,本年8月16日から18日にかけて東京にて開催されます。

不肖私も招聘委員の末席を汚しております。どうぞふるってご参加ください。

告知サイト

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続報:公開研究会を開催します

ビッグデータの保育・教育への応用に関する公開研究会を開催いたします。多くの方のご参加と熱い議論をお待ち申し上げております。


北海道大学 教育学研究院 乳幼児発達論研究グループ主催 公開研究会

「保育・教育分野における人間行動ビッグデータ活用の方向性を探る」

 近年の情報科学技術の革新的な進歩にともない,人間行動の隠れた側面が次々に明らかにされています。国内の動向だけを見ても,こうした技術を社会的インフラに組み込むことを目指す研究プロジェクトがいくつも立ち上げられています。
その中にあって,(株)日立製作所が開発した「ビジネス顕微鏡」は人間行動の隠れた側面を比較的容易に記述・分析可能なツールとして注目を集めています。実際に,保育や教育実践における遊びやコミュニケーションの質評価に関する研究が,近年,様々な大学・研究機関の研究者によって開始されており,一定の成果をあげつつあります。
 しかし,保育・教育分野においてはビッグデータの利活用に関する議論は端緒についたばかりです。多くの研究者が研究に参入し,盛んな議論が始められる転換点に私たちは立っているものと思われます。学際的研究領域において蓄積されつつある膨大な知見を確認し,現実社会の様々な実践領域への応用を加速するためには,その契機となるような共同討議の場が必要です。
 そこで,特に保育と教育分野における人間行動ビッグデータ可視化技術の利活用に照準を合わせて最先端の知見を紹介するとともに,近未来の日本の教育を改善するための具体的方策についてオープンに議論する公開研究会を企画いたしました。多くの方のご参加と活発な議論を期待いたしております。
 なお,本研究会は2014年度北海道大学包括連携等事業の支援を受けて実施されます。

開催概要
日時 2015年2月28日(土) 13:00~17:30 (12:30より開場)
会場 北海道大学教育学部 3階 大会議室(札幌市北区北11条西7丁目)
発表題目
「幼稚園児の集団形成および園内行動の可視化」
花井忠征(中部大学 教授)・山本彩未(中部大学 講師)
「保育・幼児教育の実践への示唆」
川田 学(北海道大学 准教授)
「遺伝子と情報:Gene Matched Networksとコミュニティー解析への応用」
八木 健(大阪大学 教授)・木津川尚史(大阪大学 准教授)・合田徳夫((株)日立製作所)
「ビジネス顕微鏡を用いた授業分析の可能性」
伊藤 崇(北海道大学 准教授)

コメンテーター
山森光陽(国立教育政策研究所 総括研究官)
後藤田 中(国立スポーツ科学センター 研究員)

※参加費無料
※参加ご希望の方は,申込ページ(http://goo.gl/i6cZ9i)にアクセスしてお申し込みください。
※お問い合わせ先:伊藤崇(tito@edu.hokudai.ac.jp)011-706-3293

発表要旨
「幼稚園児の集団形成および園内行動の可視化」
花井忠征(中部大学)・山本彩未(中部大学)
 幼児の行動や集団形成に関する研究は,観察法やビデオ画像分析による行動軌跡図式化やソシオメトリーの図式化によって古くから分析されている。しかし,定量データを分析し,行動軌跡や集団形成とその変化を可視化・ 定量化した報告はない。そこで本研究は,試行的に,自由遊び時間における遊具遊びや運動遊びの行動と集団形成の変化を可視化・定量化し,その実態を検討した。本発表では,実態の報告とともに,今後の課題について考える。

「保育・幼児教育の実践への示唆」
川田 学(北海道大学)
「環境を通した教育」を方法原理とする幼児教育・保育の実践において,環境の特性を把握するための概念枠組みや評価軸の検討は重要な論点となる。幼児にとっての環境のうち,ここでは人的環境としての「教師」と,物的環境としての「木の棒」を取り上げる。幼児教育は,小学校以降と比較すると諸環境の枠の自由度が高い実践であり,特に教師は複数人で保育にあたることが多い。そのため,教師間の円滑なコミュニケーションは,実践の質を担保する基盤的な条件である。
一方,可動の自然物/半自然物(花,葉っぱ,どんぐり,石ころ,砂・土,木など)も,幼児の感性を育み,遊びを促す材としての重要環境である。木の棒は,幼児が好んで接触・使用する材の代表であり,多様かつ創造的な遊び方を生む。
報告では,センシングデバイスを用いた教師間コミュニケーションと幼児の棒使用に関する定量データをもとに,そこから得られる実践的示唆と今後の測定に関する諸課題を整理する。

「遺伝子と情報:Gene Matched Networksとコミュニティー解析への応用」
八木 健・木津川尚史(大阪大学)・合田徳夫((株)日立製作所)
私たちの脳には,約1000億個の神経細胞があり,一生にわたる莫大な情報を処理している。私たちの脳に,莫大な情報処理をするシステムがどの様につくられているのかは未だ不明である。しかし,近年,脳の情報処理の基盤には,神経細胞の個性ある神経活動と,様々な組み合わせの神経細胞の集団的活動が重要であることが明らかとなり,その活動は,複雑なニューラルネットワークの性質によりもたらされていることが示唆されている。これまでに私たちは,個々の神経細胞でランダムな組み合わせで発現している遺伝子(クラスター型プロトカドヘリン(cPcdh))群を発見した。この遺伝子群は,神経細胞間のネットワーク形成に関わることが予想されており,現在,分子メカニズムの研究が進められている。一方,シミュレーション解析の結果,個々の神経細胞で(ネットワーク形成)遺伝子群がランダムな組み合わせで発現して形成されたGene Matched Networksは,集団性が高くスモール・ワールド(短い距離)性をもつ複雑なニューラルネットワークとなることが明らかとなった。実際,脳にある複雑なニューラルネットワークは高い集団性とスモール・ワールド性をもつことが明らかとなっている。本講演では,このGene Matched Networksの特徴について解説し,この脳研究により明らかになった新しいGene Matched Networksモデルが,実は,人の集団におけるコミュニティー活動を定量的かつ視覚的に解析する上でも有効であることを,ビジネス顕微鏡により取得した授業データの分析結果を用いて紹介する。

「ビジネス顕微鏡を用いた授業分析の可能性」
伊藤崇(北海道大学)
この発表では,小学校の一斉授業ならびに理科のグループ活動に参加する教師と児童を対象として,コミュニケーション過程を記述する新しい方法を示す。教育学や心理学においては,授業での学びの実際を明らかにするため,そこでのコミュニケーションに焦点を当てた分析がなされてきた。しかし,丁寧な分析をしようとすればするほど,コミュニケーションの複雑さの記述に時間を要することとなる。本研究はこうした問題に対して,ウェアラブルセンサによって授業中の対面データを収集することを通して一定の解決を図ることを目的とする。さらにこうしたセンサは,身体の揺れのリズムなど,観察者としての人間には把捉不可能であった側面に焦点を当てることも可能にする。当日はこれらの新しい種類のデータから授業研究にどのような展開をもたらすことができるかについて議論したい。

公開研究会を開催します

下記の通り,職場にて公開研究会を開催します。

多くの方のご参加をお待ちいたしております。


北海道大学 教育学研究院 乳幼児発達論研究グループ主催 公開研究会
「保育・教育分野における人間行動ビッグデータ活用の方向性を探る」

 近年の情報科学技術の革新的な進歩にともない,人間行動の隠れた側面が次々に明らかにされています。国内の動向だけを見ても,こうした技術を社会的インフラに組み込むことを目指す研究プロジェクトがいくつも立ち上げられています。その中にあって,(株)日立製作所が開発した「ビジネス顕微鏡」は人間行動の隠れた側面を比較的容易に記述・分析可能なツールとして注目を集めています。実際に,保育や教育実践における遊びやコミュニケーションの質評価に関する研究が,近年,様々な大学・研究機関の研究者によって開始されており,一定の成果をあげつつあります。
 しかし,保育・教育分野においてはビッグデータの利活用に関する議論は端緒についたばかりです。多くの研究者が研究に参入し,盛んな議論が始められる転換点に私たちは立っているものと思われます。学際的研究領域において蓄積されつつある膨大な知見を確認し,現実社会の様々な実践領域への応用を加速するためには,その契機となるような共同討議の場が必要です。
 そこで,特に保育と教育分野における人間行動ビッグデータ可視化技術の利活用に照準を合わせて最先端の知見を紹介するとともに,近未来の日本の教育を改善するための具体的方策についてオープンに議論する公開研究会を企画いたしました。多くの方のご参加と活発な議論を期待いたしております。
 なお,本研究会は2014年度北海道大学包括連携等事業の支援を受けて実施されます。

開催概要
日時     2015年2月28日(土) 13:00~17:30 (12:30より開場)
会場     北海道大学教育学部 3階 大会議室(札幌市北区北11条西7丁目)

発表題目
「幼稚園児の集団形成および園内行動の可視化」    花井忠征(中部大学 教授)・山本彩未(中部大学 講師)
「保育・幼児教育の実践への示唆」     川田 学(北海道大学 准教授)
「遺伝子と情報:Gene Matched Networks」     八木 健(大阪大学 教授)・木津川尚史(大阪大学 准教授)
「ビジネス顕微鏡を用いた授業分析の可能性」     伊藤 崇(北海道大学 准教授)

コメンテーター
山森光陽(国立教育政策研究所 総括研究官)
後藤田 中(国立スポーツ科学センター 研究員)

アドバイザー
合田徳夫((株)日立製作所)

※参加費無料
※参加ご希望の方は,申込ページにアクセスしてお申し込みください。
※お問い合わせ先:伊藤崇(tito@edu.hokudai.ac.jp)011-706-3293

指定討論の恐怖

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先週末は京都大学へ。発達心理学関係の学会に参加してきました。

学会に参加して何をするのかと言いますと,個人やグループでの個別研究発表を聞いて動向を確認するのはもちろんのこと,講演会や,複数の研究者によるあるテーマをめぐるシンポジウム,そしてもう少しラフな場で議論をするラウンドテーブルといったイベントに出席するのです。

そうしたイベントにただ聴講しに参加することがたいていですが,どういうわけか,自分の研究について「話題提供者」として話しをする機会をいただいたりもしますし,提供された話題に対して「指定討論者」として質問したりコメントしたりすることもあります。

ぼくはこの「指定討論」がほんとうに苦手です。いままで,学会が終わってから後悔しなかったためしがありません。

多くの場合は話題提供者の方から事前に発表資料をいただきますので,それを読んでおいてだいたいのコメントを考えておきます。ただ,個別の発表にコメントを返すことが果たしていいのかと悩むこともあります。どういうときかと言いますと,そのシンポジウムなりラウンドテーブルでの全体の議論を活性化することが求められるような場合です。これに失敗すると,「おとしどころ」が分からずに場の空気を読めないコメントばかりが口をつくという最悪の事態に陥ります。

案の定,先日の学会でもそういうことになってしまい,学会終了後は憂さを晴らすべく痛飲しました。

発達心理や教育心理の領域で著名なヴィゴツキーという研究者について,その理論の背後にいる哲学者のスピノザとの関係性について議論するシンポジウムを企画し,ご高名な先生方に来ていただくことができました。ぼくは僭越ながらその先生方への指定討論を仰せつかったのですが,ぎりぎりまで何を話せばいいのかよく分からないまま,結局その場ででっちあげたのは自分とヴィゴツキーとの出会い方というどうでもよい話しでした。

こういうときは,帰りの飛行機の中で「ああ,こう言えば良かった」というアイディアがぽんぽん出てくるのです。

そういうわけで,思いついたことを書き付けておきます。ヴィゴツキーが格闘したのは彼が生きていた時代や社会における具体的な諸問題であったはずであり,そういう諸問題について考える上でスピノザを参考にしたのでしょう。つまりヴィゴツキーはスピノザと「ともに」具体的諸問題を考えようとしていたはずです。一方,私たちはこの時代,この社会における具体的な諸問題と格闘しており,その方向性を考える上で「スピノザを読むヴィゴツキー」を読むのが適切なのだとしたら,その問題とはいったい何だろうか,という問いを,話題提供の先生方に投げかければよかったなあ,と思いました。

「あらゆる時代,あらゆる社会,あらゆる心理的諸問題」に適用可能な心理学理論や心理学概念はありません。ある理論やある概念は,個別の具体的な問題状況から生まれ,それを解きほぐすために用いられます。ヴィゴツキーの理論や概念もまたしかり,でしょう。だとしたら,どういう問題状況にとって,スピノザ経由のヴィゴツキー理論の適用が適切なのだろうかという疑問だと言い換えられます。

ある先生はこの資本主義化された社会における個人の解放を問題としたいと言うでしょうし,ある先生は幼児期におけるごっこ遊びの意義について考えるため,と言うでしょう。理論をめぐって空中戦を戦わせるよりは,よっぽど具体的な話しができただろうと今にして思います。

指定討論を,学会が終わって3日後くらいにメールで行うとかいったルールにすればいいのになあ。