言い換え,説明,解釈

ただいま,留学生といっしょにデータを分析中。結果を来年度発行される紀要に載せようという話になっている。

心理学出身の学生ではないので,データを分析してそれを並べて論文の体裁を整えると一言で言っても理解しにくいかもしれないと思い,スモールステップでやっている。

先週は,ローデータをExcelに転記して,ピボットテーブルを使ってクロス表を作ることをやった。宿題として,たくさんクロス表を作ってもらい,それぞれについて言葉で説明を書いてきてもらうことにした。

ただ説明しろと言っても難しいかもしれないので,掲題のように,説明を3つの要素に分割し,それぞれを1文で表現するように求めた。

「言い換え」というのは,表中の得られた数値を本文用に言葉で言い直すこと。「カテゴリAが36%,Bが64%だった」といったように。

「説明」というのは,「言い換え」た文の内容を一段抽象度を上げてさらに言い直すこと。「カテゴリAよりもBの方が多かった」といったように。

最後の「解釈」は,「言い換え」「説明」で得られた内容から何か主張をすることだが,あまり飛躍しないように,あくまでもデータから言いうる範囲でものを言うように練習してもらう。

手順をスモールステップにして,明示化しながらやっているので,少し時間はかかる。しかし,学生はなんとなく「文を書く」ということがどういうことかつかんできているようだ。

来週は,たくさん作った表を並べ直して,「ストーリーを作る」という作業。ここが正念場。

小学校での研究発表会

とある小学校と,授業場面での教師と児童によるコミュニケーションに関する共同研究を3年間行ってきた。今年度が3年目にあたり,先日その成果を先生方の前で発表してきた。今回は,共同でデータを分析している関根和生さんと一緒。関根さんは発表がうまくて,学校の先生から「好きだ」とお褒めをいただいていた。

分析は,ビデオに撮った授業に基づいている。今回は,教師と児童の身体的な動きを徹底的に細かく見るという目的があるので,ビデオで撮影することは必然的だった。クラスにビデオを入れさせていただくというのは難しい。プライバシーの問題など,いろいろとクリアしなければならないことがたくさんあるからである。

そういう起こりうる問題を越えて,研究の目的にご賛同くださったのが,その小学校の校長先生はじめ先生方だった。特に校長先生が非常に面白がってくださり,全面的にサポートしてくださった。先生にはことばにできないくらいの感謝の気持ちがある。学校の授業研究を引き続き行っていくことが,先生のお気持ちに応える誠意だと思う。

発表会には全校の先生が集まっておられた。ものすごい熱意である。

校長先生から趣意説明をいただいた後,司会をバトンタッチし,2人の分析を報告。関根さんは挙手と身振り,私は視線の動きと発話について。最後に,校長先生からコメントをいただく。

その後に他の先生方からご意見をいただいた。率直に言って,本質的な質問や感想をいただくことができたと思う。ありていに言えば「いただいたご意見を参考に今後もがんばっていきたい」ということなのだが,「どうがんばればいいのか」を具体的に指し示していただけた。

例えば教室には,実物投影機(書画カメラみたいなもの)が一昨年導入された。それによって,児童の視線の動かし方が変わったような印象がある,と,ある先生がおっしゃった。これは本当に嬉しいサジェスチョン。授業では,黒板,教科書,他の子ども,教師など,さまざまなリソースがあり,それらを折り合わせて個々の子どもが学習課題に取り組んでいく。そこにさらにもう一つリソースが加わることによって,いかにして集団的な相互行為と個々人の思考のプロセスが再編成されるか。面白いテーマになる。

発表会のあと用意していたいだ宴席で,4月から月1くらいのペースで授業をきちんと見せていただくこと,もう少し小規模なものになるかもしれないが研究会を定期的に実施することを先生方と約束した。

普段はみなさんお忙しそうで声をかけるのもはばかられるほどなので,これを機会にいろんな先生とお話しさせていただく。こんなに楽しい飲み会はそうめったにあるものではない。

家族とはなにか

 

家族とはどのような社会集団であろうか。

それは、一般的には、構成員が徐々に増加した歴史を持つ集団である。核家族を例に取ろう。はじめに、一組のカップルが成立したところから家族の歴史が始まる。この時点での家族の構成員は二人である。時間をおいて、カップルの間に子どもが誕生すると、構成員は三人に増える。以降、子どもが生まれるごとに構成員は増えていく。

無論、双子で誕生した子どもや、ステップファミリーなど、上記のモデルに当てはまらない家族は現実に多くある。しかしそうした多様性はここでは重要ではない。ここでは、時間の経過とともに人数が増加する集団という観点で考えてみたい。これは、多様性を越えた、家族の歴史の一般的特徴といっていいだろう。

時間の経過とともに人数が増加する集団においては、構成員の間で「一緒に過ごした時間」が異なるという事実がある。

家族においては、カップルは、第一子よりも、長い時間をともに過ごしている。第一子は、第二子よりも長い時間を家族三人で過ごす。言い方を変えると、二人で過ごした時間の上に三人で過ごす時間が重なり、三人で過ごした時間の上に四人で過ごす時間が重なっていく。このように、家族の場合は、一緒に過ごした時間が単に異なるのではなく、人数の増加とともにずれながら積み重ねられていくのが特徴である。

【研究】論文が掲載されました

以下の論文が掲載されましたのでお知らせします。

伊藤 崇・関根和生 (2011). 小学校の一斉授業における教師と児童の視線配布行動 社会言語科学,14,141-153.

この論文に関するお問い合わせは tito [ at ] edu.hokudai.ac.jp 宛お願いいたします。