学部専門科目として開講している発達心理学実習のメンバーで,実習の時間帯に,市内の円山動物園にやってきました。
実習では体系的な観察法について学んでいます。心理学における観察法では人間の行動を対象とするのですが,それを行う前にまず動物を対象として練習するという趣旨です。
今年はホッキョクグマのララに双子のメスの子どもが生まれたので,その子どもたちを観察することにしました。テーマは「ホッキョクグマの子どもはどのようにして遊んでいるのか」です。
練習に際して動物園の動物を対象とする利点としては,
- 観察の範囲が限られている。完全なオープンフィールドでは,いつ,どこから動物が現れるのか分からないので,実習の一部としては取り入れにくい。
- 行動に集中して活動を記述する練習になる。乳児以外の人間だとどうしても言語も無視できず,分析と解釈が複雑になる。
- 展示時間中は何度でも繰り返し観察することができる。
- 単純にかわいいので,学生の動機づけを高められる。
といったことがあります。逆に,動物を対象とすることで起こる悩みとしては,以下のようなことが挙げられます。
- 展示時間中,さほど活動的でない動物を観察しても,行動のバリエーションがないために練習にならない。今回は,動物の子どもを対象としたために活動的だったが,たいていの成獣はじっとしている。
- 似てはいるが,動物行動学的には決定的に機能の異なる行動の見分けが困難。私たちは動物学者ではないので,その専門家からすれば問題のあるコーディングスキーマしか作れないかもしれない。対象が人間であれば,観察者も人間なので行動の解釈はやればできる。
- 単純にかわいいので,学生が写真ばかり撮ってしまい観察に集中できない。
8名の受講生がペアに別れて,最終的に自分たちで考案したコーディングスキーマに沿った事象見本法による観察を行うという課題です。はじめにホッキョクグマの子どもの行動を,おおまかに社会的側面と物理的側面に整理しながら予備的観察をしてもらいます。その結果に基づいて,最初のコーディングスキーマをペアで考えてもらい,5分間の観察を行います。最初のスキーマのアラが見えるので,それを修正してから再び5分間の観察をしてもらいました。
観察終了後,ペアの間でコーディング結果がどの程度一致していたのかを確認してもらいます。むしろ重要なのは,どの点で一致していなかったのかという点で,一致しづらいカテゴリーについては再考が必要となります。そもそもホッキョクグマの遊びについて私の方でも知恵がなかったのでそのまま進めてしまいましたが,本来は「どのような行動が遊びなのか」についての操作的定義がなければ,事象間の区別もできません。今回,この部分で一致していなかったペアもありました(逆に,どの行動が遊びと目されるのかがほぼ一致していたペアもあったということで,それはそれですごいですね)。あらかじめ定義しておくことの大事さに気づいてくれたと思います。