FW1 10-11

     not yet, though venissoon after, had a kidscad buttended a bland old isaac:

 小憎が老盲凡アイザックを突っつきだましたのも、もうすぐあとだが、まだのこと。

 この一節について、Joyceはこうメモしている。
 The venison purveyor Jacob got the blessing meant for Esau*2
 鹿肉を調達してきたヤコブが、エサウに与えられるはずの祝福を得た。
 これは、創世記第27章のエピソードである。アブラハムの息子イサクとその妻リベカには、エサウとヤコブという双子の兄弟がいた。年老いて目も見えなくなったイサクは、父アブラハムから受け継いだ神の祝福を受ける権利(すなわち、族長の地位)を長子エサウに渡そうとしていた。鹿肉で作った料理を食べさせてくれればその権利を渡そうと約束し、エサウは勇んで狩りに出かけた。
 ところが妻リベカは弟ヤコブにその権利を与えたかったため、一計を案じた。

「而してリベカ家の中に己の所にある長子エサウの美服をとりて之を季子ヤコブに衣せ 又山羊の羔の皮をもて其手と其頸の滑澤なる處とを掩ひ 其製りたる美味とパンを子ヤコブの手にわたせり 彼乃ち父の許にいたりて我父よといひければ我此にありわが子よ汝は誰なると曰ふ ヤコブ父にいひけるは我は汝の長子エサウなり我汝が我に命じたるごとくなせり請ふ起て坐しわが鹿の肉をくらひて汝の心に我を祝せよ」(文語訳聖書 創世記 第27章15節~19節)

 したがって、以下のように読める。
 venissoon: venison(鹿肉) + son(息子)
 kidscad: kids(子ヤギ) + cad(卑劣なヤツ)。McHughはkidscadにtrickを読んでいるが?
 a bland old isaac: a blind old Isaac(盲目老人イサク

 同時に、この一節は19世紀のアイルランド独立運動の文脈で読むこともできる。
 まず、old isaacとはアイザック・バット(Isaac Butt)のこと。そう言えば、buttendedが見える。
 バットは、アイルランド自治を訴えた自治連盟(Home Rule League)の創設者。
 彼に代わって二代目リーダーとなったのがチャールズ・スチュワート・パーネル(Charles Stewart Parnell)。彼の子どもの頃のあだ名がButthead(頑固者)*1。バットを追い出したからbutt-endということでもある。

 venisoon: very soon*1

 buttended: buttendには「バットの先で突く」という意味もあるらしい。


*1 McHugh, R. 1980/91 Annotations to Finnegans Wake. Johns Hopkins University Press.
*2 Ellman, R. (Ed.) 1976 Selected letters of James Joyce. Faber and Faber. pp.316-7

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