泣きと不安

 赤ちゃんの仕事は泣くことだと言うが、生まれて3週間目のアマネもご多分に漏れず、何かあると泣く。

 腹がすくと泣くのはある程度予測がつく。2~3時間おきだ。

 ところが、授乳後しばらくぐずつくことがある。授乳中に満ち足りた顔をして吸うのをやめる。おなかいっぱいかな、とゲップをさせて、寝床に降ろす。するととたんに、ふにゃふにゃとぐずつくのである。

 夕方、沐浴をさせてからだいたい夜10時くらいまでこのような状態が続く。

 本人に聞かないと分からないが、おそらくお腹はいっぱいなのだろう。ただ、母親から離して寝床に置こうとすると、急に目の前から栄養源が消えるわけで、それが不安なのではないか。それで泣いているのでは、と疑っている。

 ただ、母親にはそのぐずりがこたえるようで、「おっぱい足りてない」不安がむくむくとわくようだ。確かに、おっぱいは夕方になるにしたがい出が悪くなっているようだ。だから、お腹いっぱいになって休んでいるのではなく、吸っても出ないので吸い疲れ、でもまだ空腹なので泣くというわけで、頻繁に吸いたがるのではないか。母親はこのように心配している。

 むしろぼくは、「おっぱい足りてない」不安につかれた母親の方が心配だ。赤ちゃんは少々お腹がすいていても、少々泣いても、どうということはない。実際、体重が生後3週間でついに4000gの大台を突破したらしい。足りてないわけがない。

 母親ですらそのような不安をかかえながら授乳させている。それを第三者がわざわざ言葉にして母親に向けたとき、激しい感情を引き起こす可能性は高い。産院で開かれたプレママセミナーに出席したおりに聞いた話だが、新生児の母親が一番嫌がる言葉が、実は「おっぱい足りてないんじゃないの?」なのだそうだ。

 そうした不安を解消すべく、泣きの原因を別の角度から解釈し直すのは、なかなか母親ひとりでは難しいだろう。そういうとき、別の視点をもつ第三の人間の役割が活きてくるのではないか。父親でもよいだろうし、誰か他の身内の人間でもいい。知り合いでも、医療従事者でも、テレビ番組でもいい。

 むろん、立場や経験が違えば、おのずと言うこともかわってくる。だから、誰の言うことを聞けばよいのか分からないと、かえってパニックになる人もいるだろうけど。

 答えは目の前の赤ちゃん自身に隠されているのだから、まずはかれをじっくり眺めることが必要なのは間違いない。ただ、泣きの原因についてさまざまな角度から赤ちゃんを眺められるのもまた、第三者だろうと思う。

 ふと思ったが、おっぱいを物理的にあげることのできない人間が、その制約を通して、おっぱい以外の泣きの原因を発見できるのではないか。逆に、おっぱいをあげられる人間は、それがあるからこそ、おっぱい以外の原因を見つけることができにくくなるのかもしれない。

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