逆さメガネ教室をゆく

 非常勤先では、一般教養の心理学を担当しています。今週のテーマは「感覚」。きわめてオーソドックスに、視覚系のお話をしました。

 今週は秘密兵器を持っていきました。逆さメガネです。竹井機器インバーシングプリズムです。
約9万円です。

 眼球の構造の話をした後、網膜像が倒立しているにもかかわらず正立視が生じるのはなぜかという問いを投げかけます。
そしておもむろに、この問いに憑かれたストラットンを紹介。その流れで逆さメガネを取り出します。

 まずは自分でつけてみます。ふだんは静かな教室に笑いが起こります。

 「つけてみたいやつはいるか?」聞いてみますが、誰も手を挙げません。

 ぼそっと「つけてもいい」とつぶやいた男をつかまえてメガネを装着させます。「おお、気持ちわりい」などと言いながら、
楽しそうです。楽しそうだったからか、それから2人の男が自主的に手を挙げてくれました。

 ただつけるだけではなく、立ち上がらせ、教室の中を徘徊してもらいます。そろそろと手を前に突き出しながら歩く姿に、
他の学生も爆笑。

 講義が始まって30分くらいすると、寝ているやつがだんだん多くなってくるのですが、今回は少なかったです。

 講義後に提出してもらうリアクションペーパーの反応もおおむねよかったですね。
感覚知覚系の話をするときはインパクトの強い実験を授業中に比較的容易に行なうことができるので、
聞いている方も講義をする方も楽しいですな。

中学生日記

 中学生について書くので、中学生日記である。

 昨日、所属する学部内委員会の先生より電話があり、中学生の応対をせよとのこと。道東の斜里町より修学旅行で札幌を訪れている中学生が、企業や大学を訪問して話を聞きにやってくるのだそうだ。北大では教育学部と経済学部に白羽の矢があたり、うち教育学部を担当することとなった。

 どうも修学旅行前にあらかじめ訪問先別にグループを分けていたらしく、そのグループで相談したとおぼしき質問内容が教務に送られてきていた。曰く、「先生になるにはどういう資格が要りますか」「効率のいい勉強方法は何ですか」「生徒に授業内容を理解してもらうための話術とは」などなど。

 こちとら自慢じゃないが教員の免状をもっていない。仕方ないので、ゼミの4年生で教採を受けた学生に声をかけて、来てもらうことにした。これで先生の資格関係の質問はクリアである。

 あけて本日、設定された教室に行くと、制服に身を包んだ女子中学生が4名、ちょこんと座っていた。

 はじめに大学紹介DVDを見てもらう。そのあと、あらかじめ送られていた質問事項に沿って、来てくれた4年生3人に回答をしてもらう。こちらは脇で中学生と大学生のやりとりを見ているだけ、ときたま口をはさむくらいで楽である。

 準備していた質問についてあらかた話し終わったあと、自由に質問してもらう。出てきたのは、「友だちとトラブルが起こったときにどうすればいいか」「大学生に校則はあるのか」。どちらも中学生の生活においては切実な問題であろうし、だからこそ出てきたのだろう。一方で、大人だってトラブルを起こすし、ルールを守れない人もいる。悩みどころはそう変わらないのだなと思った。

感想よ、お前もか

 非常勤のレポートを採点中。

 2つの課題を出して、どちらか1つを選択せよとした。1つは、教育実践に心理学の概念がどう使われているのかを調べること。もう1つは、斎藤環『心理学化する社会』を読んで要約を作り、感想を述べること。

 後者の方は我ながら意地が悪いと思う。さんざんカウンセリングだの脳だのといった話しを講義中にしておいてから読ませるのだから。「けっきょく心理学ってなんなの?」と、ちょっとでも混乱してくれたらそれでいいと思った。

 で、何人か読んだ感想を書いてきたのだが、読んでいてどうも違和感をもつものがあった。学生のレポートを読んだことがある人なら誰でも抱く(だろう)あの感じ。どうも、異質な文体が複数混在しているようなのだ。

 ふと思い立ち、件の本のタイトルでネットを検索。

 あ、見つけた。レポートと同じ文章がネット書評に。

 この野郎。感想までパクるんじゃねえよ。いやあ、要約部分くらいはネットからパクる人がいるかもなと思っていたが、感想もとは。いいよ、まねしても。読んだってわかんねえのかもしんねえから。ただ、きちんと定められた形式で引用をしろよ。

 …と文句を吐きながら、もしかすると学生は、引用のしかたを習っていない、あるいは忘れたのではないかと思い直した。

 決めた。レポートを課題にするときは、1時間使って、引用のしかたを徹底的に教える。それに則っていないものは剽窃として問答無用で落とす。もー決めた。レポートの書き方は1年生の時に習ったはずでしょう、などと言うのは時間のムダだ。他の教員が教え損なったものを教え直すのは、同僚としての義務かもしれない。教育に分業制はあわないのだ。と自分に言い聞かせる。はあ。

 それにしても、文体の違いって一発でわかるよなあ。「~節」ってのもあるし。このことを講義で話そうかな。故波多野完治先生がやっていた文体研究を引き継いでいる人って、いないのかね。

集中講義

 31日から本日2日にかけて、大学院の集中講義に佐々木正人先生がいらっしゃいました。

 佐々木先生と言えばアフォーダンス。いろいろと日頃より募る疑問もあったのですが、仕事柄裏方に徹することが多く、ろくすっぽお話しせぬまま終わってしまった感じです。

 今回の講義は、最新の著作『ダーウィン的方法』および『動く赤ちゃん事典』の紹介を中心に進められました。

 ダーウィン的方法とは、理解できた範囲で端的に申し上げれば、行為によってなぞられる輪郭をもって環境を描くための方法です。

 たとえば階段とは常識的には上階に移動するための通路ですが、そのほかにもいろいろと使い道があります。座ることもできるし、ひな飾りのように物を並べて飾ることもできます。このように、ふだん私たちが簡単に「階段」と言って済ませる環境が、行為によって多様な仕方で利用されていることが分かります。この仕方をできるかぎり列挙することが、とりあえず現時点で佐々木先生の取っている生態心理学へのアプローチであり、それをダーウィン的方法と呼んでいる、と理解しました。

 『動く赤ちゃん事典』の紹介もありましたが、なかにこんな映像がありました。

 10か月の男児が、いっしょうけんめい冷蔵庫の脇にある棚の引き出しから、調味料やら小麦粉の袋やらを取り出している。「何をしているんだろう?」と見ていると、中の物を取り出すのをやめて、やおら立ち上がり、引き出しの縁に手をついて片足をあげようとしている。どうも、引き出しの中から物が出されて空いたスペースに、自分の体を入れようとしているらしい。

 こんなことは、小さな子どもを見ているとよくあるわけです。そのたびに、「なんでこんなことをするんだろう?」と不思議に思います。はたまた、「なんでこんなこともできないんだろう?」と考えることもあります。たとえば、おとなしくごはんを食べるとか。

 しかし、佐々木先生のアプローチからするなら、小さな子どもの行動からわたしたちが感じることとは、「人間って、こういう環境に出会ったとき、こんなこともできるんだ」という驚きなのだと言えます。

 佐々木先生がおっしゃっておられましたが、環境とは「ある-ない」の世界ではなく、「ある」しかない世界です。「ない」のない世界なのですね。当たり前ですが、このことは人間の認知発達を考えるとき、絶望的なほどに重要です。

 人間の行為もそうで、「なんでできないんだろう」「なんでこんな(アホな)ことをするんだろう」と、ついつい陥りがちなこれらの思考スタイルは、言ってみれば、人間の行為に欠損を見ているわけですね。そうではなく、常に肯定形で行為を記述することが、私たちの住む世界によりそった方法と言える。肯定形ですから、人間のやってしまった行為群はいずれもすべて対等に記述されるべき価値を持つ。だから羅列的にどうしてもなってしまう。事典製作プロジェクトは、赤ちゃんの行為を「とにかくたくさん集める」というところから出発したのだそうです。

 おもしろい方法だと思います。特に共感を覚えたのは、否定形のない世界(これがギブソンの言うリアリズムの一面だと思います)に私たちが住んでいるというところ。そして言語心理学的に面白いのは、そうした世界に住みながら、言語的には否定形を用いているという事実です。

ファン誕生か?

 本日はオープンユニバーシティ。高校生を中心とした一般市民に大学を開放し、広く研究の成果や大学生活のあらましを知らせる日である。私は学部のなんちゃら委員をおおせつかっているので、オープンユニバーシティにもかり出される。日曜の朝から妻子を残し出勤する哀れ父親よ。

 わが学部では、午前と午後で同じプログラムを2度やることになっている。私が担当するのは学部のカリキュラムやゼミについて30分で紹介するというもの。先日の一日体験入学ですでに話をしているので、だいぶ楽ではある。

 例年平日か土曜に行なっていたこの企画だが、今年は日曜の開催となった。そのためかどうか知らないが、午前午後合わせて250人を越す参加者があり、大盛況とあいなった。

 どうしても学生の関心は心理学に向きやすい。質疑応答でも「臨床心理士になるには」「心理系を卒業した後の就職先は」といった質問が出た。そうした質問が出るのは想定内なので、私と同じなんちゃら委員の先生方は「心理もよろしいが、高校生のいまから目標をしぼるのではなく、アンテナを幅広くしていろいろな勉強をしてみるのがよろしかろう」と諭す。大人である。

 休憩時間中に、ある女子高校生が私の方に接近してきた。

 「あの」
 「はい」
 「名刺をいただけますか?」
 「はい?」

 私のつたない学部紹介を聞いて、ファンになってくださったか?と一瞬色気が出た。まさか名刺を使うことになるとは思わなかったので、名刺入れをあいにく持ってこずにいた。さいわい、非常用に財布に何枚か忍ばせていたのでそれを渡す。

 「こんなものでよければ」
 「ありがとうございます」

 こころなしかその女子高校生の目は潤んで見えた。

 しかし解せぬ話ではある。なぜ名刺か?そこで、すぐそばで一部始終を見ていた事務の方に、なんだったんでしょう、今のは、と尋ねる。事務の方の話によれば、どうやらとある高校ではオープンユニバーシティへの参加も授業の一環らしく、参加したという証拠に教員から名刺をもらってくることが義務づけられているのだそうだ。あとから数人、同じように名刺をもらいに来たのがいた。

 なーんだ。勘違いしそうになっちゃったよ、おじさんは。

 しゃべり疲れ、立ち疲れ、ヘロヘロになって夕方帰宅。アマネは今日も元気でした。

前期終了

 今週水曜で非常勤2つが終了。ひとつはレポートだが、もうひとつの方は試験を来週に行なう。採点を8月頭に終わらせて、ようやく肩の荷がおりる。もうひとふんばり。

 終了後、北大にとんぼ返り。坂元忠芳先生が来校され、セミナーを開くとの情報を受け、それに参加するため。3時から始まっていたので、途中からの参加とあいなった。

 先生のご尊顔は初めてお見かけしたのですが、まあお元気な方でした。しかし70を越えてらっしゃると思うのですが、いまだにバリバリと本を読みこなしているところがすばらしく、我が身の無知に恥じ入って話しかけることはできませんでした。

 豆知識。どうも先生的には、ユングが来る、らしい。

ちょいとびっくり

 空には雲があつくかかり、しかし晴れ間から強い日差しが降る、じっとりとした陽気。札幌でも、年に数日はこんな日がある。

 研究室で学部の雑用にかかっていると、扉をこんこんとノックする音が。

「こんにちは~」と顔を出したのは、も、茂呂先生?大学院での師匠である。

 奥様が北海道のお生まれで、二人で里帰りに来ていたのだそうな。奥様はこちらに残り、先生だけ今日8時の便で東京へ発つとのこと。大きな荷物から深川名物ウロコダンゴが取り出され、「おみやげです」とくださった。

 ちょいとびっくりした。先に言ってくれればいいのに。

 佐藤先生とともに構内のレストラン、エンレイソウで食事。筑波大の最近の様子などをうかがう。ちょっとショッキングな、しかしある程度想定内のニュースを聞いた。うーーーーむ、ぼくが学生のときから噂は聞いていたが。

 茂呂先生を見送り、ふたたび仕事に取りかかる。しかし暑いのでうじうじしながらである。

 本日は幼児園では年長さんがお泊まり会をすることになっている。午前中に円山に登り、動物園を散歩した後、園に戻ってからみなで近くの銭湯に行ってきたようだ。

 夕食はカレーとざるそばとざるラーメン。ちょっとお相伴にあずかる。子ども用のカレーの甘さもなかなかよろしい。

 かれらはこれからキャンプファイヤーと花火とくらやみさんぽと映画鑑賞をするとのこと。みんな、超が3つくらいつくほど興奮している。上気した顔をうしろに、帰路につく。

 帰りの地下鉄は浴衣姿の若い奴らでいっぱい。どうも豊平川あたりで花火があるようだ。

 団地の5階の我が家にたどり着き、ベランダから北の方を眺めてみると、打ち上げ花火の大輪がはるか夜空に浮かんで消えた。

怒鳴る度

 卒論やら調査やら会議やら非常勤やらアマネとの遊びやらで忙しく立ち回っているうちに七月になった。茫然である。

 昨夜は非常勤先の試験問題を徹夜で作成した。どろんとした眠い目でその非常勤先で講義を始めようとするとざわざわと相変わらずうるさい一角があり、思わず「うるせえな、静かにしなさい」(原文ママ)とマイク越しに怒鳴った。

 このあいだは、卒論生が「こうすればいいですか、ああすればいいですか」と研究の進め方についてあんまりにも人任せにするので「いちいち聞くんじゃねえ」(原文ママ)と怒鳴った。

 どうも気持ちに余裕がなく、怒鳴る度が高まっている気がする。いかんなあ。

卒論決起集会

 と称して、卒論を見ることとなった4年生とともに飲みに行った。今年面倒見るのは3名。メグくん、タヤくん、ワーさん。いずれ劣らぬ壮士である。

 「なに食いたい?」と聞くと、メグくんは「焼き鳥食いたいッス」とのこと。OK、ではあそこへ行こう。

 てな感じで北大正門前の鳥源へ。4人で鳥串36本食い尽くした上、野菜串もたらふく。

 OK、じゃあ河岸をかえて日本酒をがんがんと飲もう。

 てな感じで札幌駅北口の味百仙へ。

 ここは札幌一日本酒のそろえがよろしいと言われている。私は、(確か)早瀬浦、東洋美人など4杯を飲んだ。

 ここで卒論夏合宿を決行することを謀議する。いわく、「韓国は日本より安い」「新幹線に乗りたい」「知床はよい」などなど、候補は挙がったが、結局のところ、大滝で温泉に浸かりながらというセンで固まった。ジャンケンで負けたタヤくんが幹事である。よろしく。

一日体験入学

 土曜日には私の所属する学部で高校生向けに一日体験入学なるものが開かれた。中身は、大学生活の説明とゼミの体験である。市内からの参加が大半だったが、道内(旭川や静内、函館など)や青森、三重からも参加者があった。今年は例年よりも少し人数が増えたようだった。

 私は体験入学を取り仕切る委員というものになっていて、今回は大学生活の説明をするという大任をおおせつかっていた。説明にはパワーポイントを使うのだが、そのファイルを昨年担当された先生から受け継いでいたので、今年度向けに少し修正を入れるだけで済んだ。金曜の夜まで、準備は万全であった、はずだった。

 体験入学当日の朝、妻の叫び声に目を覚まし、時計を見ると午前8時半。体験入学の開始が9時。我が家から大学まで、地下鉄で最低でも30分かかる。

 ?!

 飛び起きるなり4分で支度をして地下鉄駅に走り込んだ。幸い、すぐに列車がホームに入ってきた。学部の事務に電話してみるが、走っている車内なので圏外で切れてしまう。こういうときの10分は本当に長く感じられる。やきもきしながら吊り広告を見上げてなんとか落ち着こうとする。

 さっぽろにて東豊線から南北線に乗り換え。ノートPCを小脇に抱えて構内をダッシュ。ふだん鍛えていないツケであるが、すぐに息が上がる。ホームにたどり着くと、これまた幸いなことに、すぐに列車が滑り込んだ。

 大学そばの駅から会場まで、これまたダッシュ。死にそうである。このとき、すでに時計は9時を過ぎていた。

 会場の文系共同講義棟にたどりついたのが、9時5分。同じ委員の先生方が受付に立っていた。「おはようございます、遅れてすみません」と声にならない声であいさつをすると、どうやらまだ受付中の模様。高校生も教員も全員集まりきっていないようだった。

 た、たすかった。(のか?)

 会は10分遅れで始まり、つつがなく進行。もちろん私の出番もなんとかこなした。ただ、起き抜けにつかんだのが、昨日はいていたジーンズとシャツ、それにジャケットだったので、思いっきりカジュアルな服装で高校生の前に立つことになったのが、いかがなものかと思うけれど。

 全体でのオリエンテーションの後は、ゼミに分かれての体験演習。発達ゼミではC先生とともに「養育性の心理学」というテーマで、子育てについて講義。院生にも協力してもらい、無事終了。

 気付いたときには足がヘロヘロになっており、帰宅してからはぐでーっと寝転がっているほかなかった。

 それにしても、こんなにあせったのは久方ぶり。数日前から胃腸の調子が悪く、おまけに肩が強烈にこっていたのだが、朝の運動ですっかり治ってしまった。怪我の功名である。