やきとり一真、網元

 伊達紋別の駅を降りたぼくは、歩いて5分ほどの町中にある旅館に投宿。錦旅館といい、ご夫婦2人で切り盛りされているようだ。名前は古風だが建物は比較的新しい。部屋もきれい。

 夕食を兼ねていつもながらの居酒屋へ。旅館のご主人に尋ねると、目の前にある「やきとり一真」を教えてくれた。

 入り口の網戸を開けると、店の奥までのびたカウンター。中にはおかあさん一人。7時前の店内には客の姿はない。カウンターの中程に腰を下ろし、生ビールを注文。

 メニューはやきとり中心。焼き台にはもう炭が熾っている。さっきまでやきとりを焼いていたふうで、焼き上がったのをパックに詰めてビニール袋に入れている。きっと、近所の人が持ち帰るのだろう。せっかくなので、ハツ、カシラ、つくねをお願いする。

 店の中には古い時計が何台も飾ってある。店の外にも動かない巨大な時計が鎮座していた。「あの時計は何ですか」「どこかの学校が廃校になるというので、建物の上にかけてあったのをもらってきたんです」「そうでしたか」

「こちらは古いんですか」「もう30年になりますか」「ではこのあたりでは一番古い?」「スナックなんかは代替わりしたし、そうかもしれませんね」

 むき出しの梁は真っ黒にすすけて、そこから下がったかさのついた裸電球がぼんやりとカウンターを照らす。入り口脇にはなぜか足踏みオルガン。その上には大きなラジオ。「どれもこれも、要らなくなったものを引き取ってくるんですよ」

 今の時間帯はおかあさんだけだが、後からご主人も店にやってくるそうだ。雰囲気のいいところを紹介してもらった。勘定は950円。

 店を出て夕方の街を散歩。人通りはほとんどないが、活気がないわけではない。小綺麗な感じ。

 飲み屋の建ち並ぶ一角からはだいぶ離れたところ、住宅街の真ん中にぽつんと建つ居酒屋「網元」が2軒目。こちらはネットで調べていて見つけた。名前の通り、船をもっているらしい。せっかく海のそばに来たので魚介を食べたかったのである。

 大きなのれんをくぐると下駄箱があり、靴を脱ぐ。先客は若い男性3人組で、すみのテーブルで盛り上がっている。カウンターは6席ほど、客はいない。座椅子のようなものが並べられていて、あぐらをかいてそこに座ると、ちょうどいい高さにカウンターがくる。これはまた不思議なもの。

 お店はご主人とおかみさん、それにお手伝いの女性3人で切り盛りされていた。冷酒をもらう。短冊に書かれたおすすめの中から、しめ鯖とヒラメ刺しを。

 カウンターの向こう側にいるご主人がすっと差し出した皿の上にはぱっくりと口を開けた、真っ黒で巨大な貝が。五回りぐらい大きくしたムール貝のような。中の身も一口では食べられないほど大きい。かじると口の中に磯の香りが強烈に広がる。どうも、このあたりの岩に張り付いている天然のものだそうだ。

 しめ鯖が到着。刺身のようなピンク色で美しい。塩と酢にちょっとだけつけておいたという感じ。鮮烈な味。うまい。ヒラメ刺しにはママからのサービスでミズダコの刺身が添えられていた。ヒラメはもちもちした食感に甘みが豊か。タコも甘い。

 焼酎のお湯割りをもらう。「牛レバ刺しを」「すいません、水曜じゃないと入ってこないので」なるほど、つぶすのが水曜なのか。ではと味噌おでんを頼む。ゆでたまご、こんにゃく、天ぷら(さつまあげ)を串で刺して甘味噌をかけたもの。高速のSAなんかでよく食べるようなものだが、居酒屋では珍しい。素朴でうまい。

 ご主人がまた小さな皿をすっと差し出してくれる。ナマコ酢。ええっ、いいの?という顔をして見ると、いいからいいからと手のひらを突き出して答えてくれる。酢の加減もいいし、なによりナマコがしっかりしている。これは上等。

 とどめは小振りな毛ガニ一杯丸ごと。ちょっとちょっとこれはと手を顔の前で振るが、ご主人もおかみさんもニコニコ笑い、いいからいいからと。手を合わせ、ありがたくいただく。必死になって身をほじくる。甲羅を割ってかに味噌をほじくり、足を割って身をすする。黙々と解体作業。

 大満足。というか、注文したものよりもサービスでいただいたものの方が多かったのでは。お勘定は2500円。いやあ、安い!魚っ食いのみなさん、伊達に来たら「網元」ですよ。

初の小上がり

 ただいま、調査の準備で忙しい。毎日のようにネクタイを締めて出勤し、先方との打ち合わせ。

 その準備にご協力いただいたMさんをお誘いして飲み会を開く。場所は平岸。お礼をするのに人を自分のフィールドに呼びつけるのも失礼な話だが、ぜひ飲み屋をご案内したかったのでそれを承知でお誘いした。

 夏の北海道は夜の7時とはいえども十分に明るい。まずは「かみがしま」をのぞいてみる。2人でももう座る場所がなくなっていた。「すいませんね」と言うおかみさんに「後で来ます」と告げて、「もつ一」へ。

 店の入る長屋は、道路側には5軒が軒を連ねる。今日は暑く、どの店も入り口の戸を半分ほど開け放していて中がのぞける。

「もつ一」はガラガラだった。「2人です」と告げ、縄のれんをくぐって左手の小上がりに座る。ここはいつも1人で来るので、カウンターにしか座ったことがなかった。小上がりがちょっと新鮮である。まずはホッピーを流し込み、いろいろと食す。トマト、煮込み、やきとり、小袋刺し。

 座布団に座ったのが落ち着いたのか、話が盛り上がったのか、2時間も滞在していた。どうもごちそうさま。

 2軒目、「かみがしま」を再訪。ちょうど先客が出るところで、小上がりが1卓空いた。いそいそと上がる。そういえばここもカウンターにしか座ったことがなかった。

 前の店で食をセーブしておいたのでまだ胃袋は大丈夫。安さを頼みに、再びいろいろと食す。チカフライ、セロリおひたし、刺身盛り合わせ、お好み焼き、ウド甘酢漬け。

 2人でとりとめのない話をしていたらあっという間に次の日になってしまった。終電のなくなったMさんはタクシーでご帰宅。おつかれさまでした。

総決起集会2009

 卒論を書く学生さんを引き連れての総決起集会を今年もまた行いました。

 場所はおなじみの「金富士」。6時にすすきのに集合してビルの地下に向かいます。

 店内はまだ3割の入り。奥のテーブル席を占領して、生ビールで乾杯。めいめいに好きなものを注文。

 今年は男2人が卒論を書くので、男同士の話をいろいろと。と言ってもあれですよ、江頭2:50の話ではないですよ。

 Sくんのテーマは「感動」。社会において、感動をウリにすることにはどのような意味があるのか。Yくんのテーマはまだ未定ですが、
面白い可能性をもったものを出してきてくれました。

 酒を飲んで眠くなってきたようなので、早めに切り上げ。店を出た路上で、「恥ずかしいす」と言われながら、
これからの卒論執筆に向けてエイエイオーと叫びました。

 さてここからは自由時間。平岸で降りて、いつもの「かみがしま」へ。ビール大瓶にセロリおひたし、
刺身盛り合わせにチカフライでしめて1200円でした。

江戸一、宜野座、ドンキホーテ

 東京へ行って披露宴だけではもったいないと、2日ほど滞在していた。新宿に宿を取ったので、昨年訪れてずいぶんとおもしろかった店を再訪することにした。

 披露宴前日にはM先生と大塚の「江戸一」へ。斯界では名の知れた店。店の前で5時に待ち合わせるも、まだ暖簾は出ておらず。

 と、すぐに若い男性が暖簾を出した。口開けである。「コ」の字カウンターの一番奥に座り、ビールでのどを潤す。

 肴にはカツオ、クジラ、蚕豆、ホヤ。酒は白鷹の樽酒を。よしなしごとを話す。

 2軒目は名も知らぬイタリアンに誘われるままに。常陸野ネストビールが全種類そろっている。珍しいのでアンバーエールを。よしなしごとを話す。

 大塚の駅で上野方面と新宿方面に別れる。

 新宿駅から歌舞伎町方面へ。もう少し入るかなと、やきとり「番番」をのぞいてみる。グループとグループの間に1席空いていたのですべりこみ、生をもらう。煮奴、うど、串焼き。壱岐焼酎山乃守をお湯割りで。

 店を出てふらふらと。5丁目のホテルそばにある沖縄居酒屋「宜野座」。一度入ったことがある。飲んでいるそばで唐突に三線教室が始まって、勝手に混ぜてもらった楽しい思い出がある。

 靴を脱いであがる。テーブル席で足をのばしてのんびりとする。酒はもうさすがに入らず、うっちん茶をもらう。それに沖縄そばでシメ。

 ホテルに戻り、ベッドに倒れ込む。

 次の日、花園神社に参詣してその裏手を歩く。新宿ゴールデン街にはじめて足を踏み入れた。朝だから人通りはまったくないが、飲み屋の密集ぶりはものすごいものがある。この風景の写真を撮ってはいけないそうだ。商店街振興会の掲げた看板にそう書いてあった。

 午後からの展覧会、披露宴、2次会もつつがなく終わり、一人でタクシーでホテルへ。もう12時近かったが、ぜひもう一度行っておきたいバーが近所にあり、着替えて大急ぎでそこへ。

 バー「ドンキホーテ」。ながらく新宿で働いてこられたFさんが構える隠れた一軒。先客がいたが、入れ替わりで帰って行った。

 店に入って早々、「ああ、あんたは」と、去年、1度しか訪れていない私のことを覚えていてくださったふう。

 ここに来たらジンリッキーを飲まねばならない。すっきりしていて今夜にはちょうどいい。

 客足の絶えた深夜、Fさんと並んでたわいのない話を。松前のご出身だそうで、札幌に出てきてから、かの「やまざき」の山崎マスターのところで修行をされたのだそうだ。しばらくは札幌で雇われていたが、東京に来ないかとの誘いがあって、新宿にそのまま居着いてしまった。

「来た頃は駅の辺りは舗装もされていなくて、今みたいな賑やかさはなかったの。店のあるこのあたりは昔からの商店街でね、昔は駅から神社の脇を抜けてずうっとつながってたの。太い道ができてから分断されて、人の流れがすっかり変わっちゃった」

 店はずっと歌舞伎町にあったが、治安の悪さに嫌気がさして、現在の場所に居抜きで店を構えたのだそうだ。

 ホテルの門限に間に合うように辞した。とりあえず、気になっていた店は回ることができた。

串かつ千里、こなから、蔵漆紅

 研究室にてSさんと打ち合わせ。小学生は学校の授業中の会話にどのようなものとして自らを位置づけるのか。また、教師は子どもがどのような会話者となることを期待するのか。

 観察をさせていただける学校を探して、夏までになんとか目処をつけることに。

 いったん別れ、夕方過ぎにふたたびすすきので待ち合わせ。

 串かつ「千里」へ。串かつ、串貝(貝はホタテだった)、フライ盛り合わせ、たこ酢味噌、刺し盛り、冷や奴などを平らげる。「串かつもう1皿いいすか」とSさん。古き良き酒場の名残、冷蔵庫の上にある小さなテレビ(もちろんブラウン管のやつ)に映し出された日ハム-ヤクルト戦に見入る酔客たち。こちらもついつい野球談義になってしまう。

 これだけ食べて、2人で5700円くらい。安いよー。 

 せっかくなのでと、Mさんをお誘いしておいた。当日の朝のメールにもかかわらずご賛同いただく。お仕事を終えて2軒目から合流していただくことに。

 千里を出て大通公園を抜ける。ライトアップされた噴水、テレビ塔にSさんが「おお、おお」とカメラを向ける。もちろん時計台にも。ここで写真を撮ると、たいていの場合、「撮ってくれませんか」と観光客に頼まれる。今回もそうだった。

 ホテル時計台そばの「こなから」へ。8時半の入店でだいたい8割の入り。運良くテーブル席が空いていた。1軒目でそうとう腹にたまるものを食べておいたので、軽めに。きたあかりのコロッケ、牛すじ煮こみ、ぬか漬け、ドライカレー。

 Mさん合流。Sさんとはお互い初めてだそうだが、共通のお知り合いが多く、あまりそういう感じもしない。話もスムーズに進む。

 ラストオーダーが妙に早く、11時には閉店。大急ぎで平らげて店を出る。

 ちょっと物足りないが、かといって、札幌駅周辺には深夜過ぎて空いているなじみのバーもなし。ではと、北12条の「蔵漆紅」へ。ちょうどJRを挟んで線対称の位置にある。

 店に足を踏み入れるとクラブのような重低音。久々だけど、こんな感じの店だったっけ?ぼくはジンリッキーをちびちびとなめながら、意識が遠のくのを抑えつつ。

 ブログでご挨拶するのも変ですが、Mさん、突然のお誘いにもかかわらず、ごちそうまでしてくださり、ありがとうございました。Sさん、遅くまでつきあわせてしまい申し訳ありませんでした。研究がんばりましょう。

三徳六味、円山ママ、夜光虫

 今後の研究についてお知恵をいただくというか、ご相談申し上げるために、東京からSさんにお越しいただいた。Sさんはジェスチャー研究の若手ホープ。お互い、小学校での子どもが展開するコミュニケーションの具体的なところに関心があり、どのような研究ができそうか話し合いをすることに。

 話し合いは金曜日に行うことにして、鋭気を養うために北海道の美味いものを食べるべく、円山に。

「三徳六味」を訪れるのは本当にひさびさ。もう1年ぶりになるのではないか。「忘れないでいてくださることが一番ですよ」と、店主の亮さん。いやもう、本当にごぶさたして。

 食事なしのコースとありのコースの2パターンがある。今回は「なし」のコースで。カウンターに陣取り、まずは生ビールで乾杯。

 先付けは、地の山菜の山葵和え。笹竹、浜ぼうふうなどが入る。(詳しくは失念)

 甘鯛の昆布締め。煎り酒でいただく。何重もの仕事がきちんと反映されている。

 八寸。胡麻豆腐、卵焼き、大角豆の胡麻和え、つぶ貝煮、ナス田楽、蛸の柔らか煮、四万十川の天然沢蟹唐揚げが、ひょうたん型の皿に。ひと品ひと品で、味の確認。

 焼き物は二品。さきほど先付けで出た笹竹を皮ごと焼いたもの。あまーい。もうひと品は、サクラマスの脂ののったところ。皮まできちんと平らげる。

 最後に、里芋の唐揚げと餅に蟹の身の入ったあんをかけたもの。山のものと海のものの取り合わせだが、何をどう組み合わせるかに心配りが見える。蟹の豪華さを楽しみながら、だしの確かさと芋の素性で安心する一品。

 帆立の山椒煮をいただく。酒のおつまみにぴったり。

 亮さん、ミキさんは相変わらずの様子。忙しそうだが、楽しそう。板場にこの4月で専門学校を卒業したという女性が見習いで入っていた。堀北真希似の、芯の強そうな方。厳しい親方のもとでしっかり修行してください。

 店を出て、もう少し酒を飲むことに。円山公園駅までの通り沿いにある不思議な飲み屋、「円山ママ」へ。

 カウンターの中にいるのはママではなくお兄ちゃん。ママというのは「インパクトのある名前にしたかったから」だそうだ。「飲みマニア」の心をくすぐる酒の揃え。Sさんは梅ワイン、ぼくは亀甲宮(いわゆるキンミヤ)のホッピー割り。おつまみに生ラム刺身と枝豆。ラムのくせにクセがなく食べやすい。

「すすきのに行きましょう」とSさん。ではと、一番の繁華街をご案内。迫り来る黒服(のような人たち)を追い返してぐるりと見て回る。

 カクテルっぽいものをとのご所望で、いつもながらの「夜光虫」へ。ぼくもいつもながらのジントニックを。それと、締めのラーメンも。1人前を2人で分けてちょうどいい分量。

 明日の話し合いに備えて終電前に切り上げる。

長崎紀行その6~丸山徘徊編

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 平戸から帰ってきた翌日の夕方は、かねてより計画していたのだが、わたし一人で長崎市街の飲み屋をめぐらせてもらうことにした。

 昼食をとった後、少し横になり、夜に向けて鋭気を養う。たかが酒を飲むのに鋭気も何もあったもんじゃないのだが、まあそこはそれ。

 4時過ぎに実家を出て、電停赤迫までてくてくと歩く。熱を帯びた西日に焼かれて体から水分がぬけていく。これでこそ最初の一杯がうまいというもの。

 赤迫から正覚寺下行きの車両に30分ほど揺られ、思案橋で降りる。さあ、どこに行こうか。

 まずは、気になっていた一軒、一口餃子で有名な「雲龍亭本店」へ。思案橋横丁の入り口近くにあるので、場所は分かりやすい。

 がらがらと扉を開けるとLの字型のカウンターにおじさんが1人、テーブル席には家族連れが1組。家族連れはもう帰ろうとしていたところ。カウンターにおもむろに座ると同時に、餃子1人前と生ビールをお願いする。生はサッポロだそうだ。のぞむところ。

 供された生ビールをのどに流し込む。しみこむ。そこへ小振りの餃子が10個、無造作に皿に盛られて出てきた。小皿に専用のタレを入れる。そこに好みで真っ赤な柚子胡椒をつけてもよい。まずはタレのみ。一口なのでゆっくり味わう間もなく飲み込んでしまう感じ。今度はよく噛んでみるものの、皮の中から出てくる脂が変に臭う。うーん、好みが分かれるところか。食べつけると病みつきになるのだろうか。

 次に向かうは、浜の町アーケードから細い路地を入ったところにある、おでんの「はくしか」。中洲の「はくしか」はここの支店である。

 入ると、店の中央にコの字型のカウンター、壁に沿ってテーブル席が5~6つほど。コの字の奥まったところにおでんの浮かぶ舟。カウンターの中には着物にかっぽう着、日本髪に結った年配の女性が立ち、フロアをもう一人の同様の格好をした女性が受け持っていた。

 どうも口開けの様子。そりゃあそうだよ、今はまだ5時半。カウンターの入り口に近い端に座り、まずは瓶ビール。壁に掛かったホワイトボードを見て、白和えも。おでんは、里芋、ギョウザ(また!)、それに自家製はくしか揚げ。芋とギョウザはまだ味がしみていないそうで、ではと、たまごをもらう。

 常連らしきおじさんが1人、入ってきた。ちらりとわたしの方を見やりながらコの字の反対端に座る。女性陣と打ち解けた感じで賑やかに会話が始まる。こちらも、札幌から来たことなど話す。頼んでおいた芋とギョウザを平らげる。昨年おじゃました「桃若」といい、長崎にはおでんの名店がそこここにありそう。ごちそうさまでした。

 次は、浜屋の裏にある大衆割烹「案楽子(あらこ)」。年配のご夫婦と、なにやら玄人風のカップル(?)の間に空いていたカウンターの一席に通される。ここでは最初から焼酎をもらう。「お湯割りで」「麦?芋?」「麦で」。長崎では麦焼酎のシェアがなかなか大きいらしく、見た感じではあるが、飲み屋にキープされているボトルの半分が黒霧島、残り半分が壱岐の麦焼酎。

 カウンターの目の前にあるガラスケースには、アジ、サバ等々の魚。魚にまじって、はじっこにネギ巻きが山と積まれている。細ネギ(わけぎである。九州ではこれを普通の「ネギ」と呼び、根深ネギなどを「太ネギ」と言うらしい)を湯がいて、白い部分に青いところをくるくるとまきつけたものだ。熊本に行った時には「一文字グルグル」とか呼んでいたと思う。懐かしかったので頼むと、酢味噌が出てきた。口の中で噛むとキュッキュと心地よい。

 ネギ巻きの後ろにはなにやらふわふわした白いものが。「なんですか」「鯨のオバです」。いわゆる、さらしくじらである。長崎、特に、昨日訪れた平戸の方は昔から鯨漁で有名であったため、今でも長崎では鯨を食わせる店は多い。ここはぜひひとつと、オバをもらう。ネギ巻きの酢味噌で食べてみる。口の中でぷりぷりとしてまた乙なもの。

 最後に刺身盛り合わせをもらう。厚く切られた身はプリプリ。おいしいなあ。

 店を出ると、夕陽はとうの昔に沈んでいた。

 銅座通りを冷やかしながらふらふらと。目についた、「雲龍亭籠町店」についつい。さっき食べたではないか。本店との味比べである。

 壁のメニューを見ると、本店よりも50円ばかり高いのが気になる。目と鼻の先なのだが、何が違うのだろうか。ここではまずは焼酎お湯割り、それに「キモテキ」(レバーのソテー)を。キモテキうまい。勢いをつけて、餃子も1人前もらおう。うん、ここのはさほど脂が臭くない。が、やっぱり餃子が小さくて物足りない。後から店に入ってきたおじさんは、テーブルに着く前に「餃子3人前」とオーダー。ここではそれくらいの量を食べなければ満足できないということだろう。

 店のある船大工町から正覚寺のある小高い丘はびっちりと建物で埋まっている。その間隙を縫う路地をぶらぶらと登る。ほどよいところで折り返し、丸山町へ。古い建物が並ぶ情緒のある通り。ここは江戸の昔、花街のあったあたり。今でもその名残はそこかしこに残っている。さあ、そろそろ締めにかかろう。

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 再び思案橋横丁へ。さきほどの「はくしか」で聞いていた、「昔ながらのちゃんとしたちゃんぽんを食わせる」という「康楽(かんろ)」にふらふらと入る。長崎らしく、ちゃんぽんで締めようと思ったのだ。黄色い、太い麺をぞろぞろとすすりながらテレビにぼうっと眺め入る。

 酔い覚ましに、誰もいない中華街を抜け、出島まで歩く。港からの風が心地よい。

長崎紀行その1

 GWを利用して、家内の長崎の実家に帰省。

 新千歳空港へ。インフルの話題がとびかっているせいか、マスクをつけてキョドキョドとあたりをうかがっている人の姿がぽつぽつ。

 まずは福岡に飛び、そこで1泊。投宿したのは博多祇園にあるドーミーインという新しいビジネスホテル。建物はきれいだし温泉があるのがいい。客層としてどうも女性を意識しているような感じ。共同浴場なのだが、女湯に入るのに暗証番号が要るらしい。

 アマネが寝てからこっそりと飲みに行く。いつもは天神に飲みに行くのだが、今回は宿から近い中洲に繰り出す。「はくしか」という、長崎に本店のあるおでんやさん。華美な喧騒から少し離れた落ち着いたお店。ただ、長崎出身だという店長がやたら陽気。「これをどうぞ」と、頼んでいない小鉢をくれる。「なんですか」「ほうれん草。ちゃちゃちゃちゃっちゃちゃーん」「ああ、ポパイねえ」

 シメは宿の目の前にある長浜ラーメン屋。「ラーメン」「固さは?」「えと、ふつう」「はいよ」。地元の人は、バリカタとか言うんだろうけど、よく分からないので適当に答える。店の壁に博多華丸の色紙が貼ってあった。

 続きはまた。

打ち上げでススキノヘ

 半年ほど一緒に仕事をしてくれたIさんと打ち上げをするためにススキノヘ。

 8時開始だったのですが、腹が減ってしまい、気になっていた店で下地を作りに一人でお先に。

串かつ千里
の暖簾をくぐると1階は3割くらいの入り。カウンターに腰をかけて、まずは生ビール。ポテサラ、湯どうふ、それに串かつも。
店名にもなっているものを食べないわけにはいきません。

 湯どうふは木綿半丁を横に切ったのがぬくめられて、ポン酢に浸されて出てきます。ネギと七味がトッピング。
もうすぐ4月とは言え札幌はまだまだ寒い。こういうのがいいですねー。出てきた串かつはやや小振りのものが2本。
ソースをたっぷりかけていただきます。ポテサラはキャベツがたっぷりともられた小鉢にてんこ盛り。

 2階は宴会をしているようで、次々に揚げられてくる串かつの皿をお盆に載せて、おばちゃんが慌ただしく階段を上り下りしています。
1階も徐々にいっぱいになってきましたので、ここらで腰を上げます。途中で切り替えたレモンサワーもあわせて1800円也。ススキノにも、
古くて安い店は探せばたくさんあるんです。

 時間が来たので待ち合わせ場所に行き待っていると、すぐにIさんが到着。連れだってビルの中の一軒へ。

魚菜
は何度か来たことがある居酒屋ですが、なにしろ酒と焼酎の揃えがすばらしく、
そこに魚介を中心としたメニューを合わせるとぴたりとはまるいいお店です。

 まずは生ビールで乾杯してお互い慰労します。やはりここに来たら魚ですね。刺身三品盛りを2人前いただきましょう。出てきたのは、
〆サバ、マグロ、それに北海道らしくハッカク。ハッカクがぷりぷりしててうまいなあ。

 その後は次々と目についたのを頼みます。ホタルイカ酢味噌和え、空豆、エビ天(さつま揚げ)、カニミソ。
この店オリジナルの明石焼きは、タコの入ったオムレツといったふうで、かけられた甘酢あんと絡めるとおいしい。

 このところ酒は燗したのしか飲まなかったのですが、久々に冷やでもらいます。短冊に書かれた「鳳凰美田」を。
ほんのりと色のついた酒を口に含み、そこにホタルイカを入れると、ああうまいなあ。

 満足して店を出ると、まだ少し飲み足りない感じ。「甘い酒を飲みましょう」ということで、この辺に来るといつもうかがう「夜光虫」
へ行ってみます。入り口を開けると、すごい喧噪。いつもは誰もいなくて心配になるくらいですが、今日は激混みです。

 Iさんは「モーツァルト」とかいうチョコレートリキュールを。「アイスココアみたいです」だそうで、ぼくはパス。
ジントニックとギネスで今夜を締めました。

平岸の奇跡

 朝から研究室にこもりきり。発散するために今宵も平岸へ。

 今日は「もつ一」にしようかなと考えながら地下鉄から地上に出ると、あれ、赤提灯が出ていません。そうか、月曜は休みでした。

 それならと、今日も初めての店に行ってみます。ずっと前から目をつけていたお店があるんですよ。
駅から少し歩いた細道に入った場所に建つ、「居酒屋かみがしま」です。

 入り口のガラス戸越しに中をのぞくと、カウンターにもテーブルにもお客さんがいっぱいのようです。えいやと戸を開けます。
カウンターの一番端が空いており、なんとか腰を落ち着けることができました。

 カウンター8席程度、テーブル3卓、奥の小上がりには4卓ほど。私の後から入ってきた数組のお客さんで、
そのすべてが埋まってしまいました。これだけの人数を、たった3人のお店の方がキビキビと動いてさばいています。これは期待がもてそう。

 まずは生をお願いしました。突き出しはタケノコ(143円)。さあ、何にしようかとメニューを見ますと、いやあ、いろんなものがあります。
焼き鳥、おでんはもちろんのこと、魚関係が充実しているようです。チカフライ、ワカサギ天もよさそうですが、
黒板に書かれていたフクラギ刺しをお願いすることにしました。ブリの小さいヤツですね。それから、目の前の短冊に書かれていた串カツと、
セロリおひたしも。

 なんだかたくさん注文したようですが、それには理由があります。一品一品が激安なのです。フクラギ刺しは8切れほどで300円(税抜き、以下同)、
串カツは大ぶりのものが2本にキャベツの千切りがきちんと添えられていて300円。セロリに至っては、
小鉢一杯にもられてなんと100円。これだけ安いと、安心してついあれもこれもと食べたくなってしまうのです。

 じゃあ、安かろうまずかろうかと言うと、さにあらず。どれも水準は超えています。むしろ美味い。

 これは大当たりと言ってよいでしょう。客層を見ても、若いのは少なくて、中年以上の方が多い。小上がりでは、
おばあちゃんおじいちゃんを囲んでご家族が団らんされています。夕食代わりに使っても懐が痛まないからいいのでしょうね。

 深く考えずに生ビールを頼んだのですが、メニューをよっく見ると、飲み物も安い。生は340円。サッポロビール大瓶がなんと300円ちょっと。げへぇ、とうめいてしまうほどの激安。ほぼ店頭価格ですよこれは。

 お酒に切り替えます。熱燗をもらうと、これまた出てきたのが大徳利。これで330円。いやあ、いいのかなあ。
いちいち感動してしまいます。

 おでんもいろいろありますが、タネを3つ選んで250円だそうです。生揚げ、たまご、それにフキをもらいました。どれもうまいし、
なにより安い。へたすると縁日のおでんよりも安い。

 ジョッキ1杯にお酒1本、おひたしに刺身に揚げ物におでんを平らげて、しめて…1851円(税込)。ちゃんと儲けてるの、
と心配になるくらいの良心価格。この安さはすすきのの「金富士」に匹敵しますが、メニューの充実ぶりからして「かみがしま」
の方に軍配をあげざるをえません。

 名前のごとく神のような存在、まさに平岸の奇跡。いいなあ平岸。