長崎紀行その6~丸山徘徊編

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 平戸から帰ってきた翌日の夕方は、かねてより計画していたのだが、わたし一人で長崎市街の飲み屋をめぐらせてもらうことにした。

 昼食をとった後、少し横になり、夜に向けて鋭気を養う。たかが酒を飲むのに鋭気も何もあったもんじゃないのだが、まあそこはそれ。

 4時過ぎに実家を出て、電停赤迫までてくてくと歩く。熱を帯びた西日に焼かれて体から水分がぬけていく。これでこそ最初の一杯がうまいというもの。

 赤迫から正覚寺下行きの車両に30分ほど揺られ、思案橋で降りる。さあ、どこに行こうか。

 まずは、気になっていた一軒、一口餃子で有名な「雲龍亭本店」へ。思案橋横丁の入り口近くにあるので、場所は分かりやすい。

 がらがらと扉を開けるとLの字型のカウンターにおじさんが1人、テーブル席には家族連れが1組。家族連れはもう帰ろうとしていたところ。カウンターにおもむろに座ると同時に、餃子1人前と生ビールをお願いする。生はサッポロだそうだ。のぞむところ。

 供された生ビールをのどに流し込む。しみこむ。そこへ小振りの餃子が10個、無造作に皿に盛られて出てきた。小皿に専用のタレを入れる。そこに好みで真っ赤な柚子胡椒をつけてもよい。まずはタレのみ。一口なのでゆっくり味わう間もなく飲み込んでしまう感じ。今度はよく噛んでみるものの、皮の中から出てくる脂が変に臭う。うーん、好みが分かれるところか。食べつけると病みつきになるのだろうか。

 次に向かうは、浜の町アーケードから細い路地を入ったところにある、おでんの「はくしか」。中洲の「はくしか」はここの支店である。

 入ると、店の中央にコの字型のカウンター、壁に沿ってテーブル席が5~6つほど。コの字の奥まったところにおでんの浮かぶ舟。カウンターの中には着物にかっぽう着、日本髪に結った年配の女性が立ち、フロアをもう一人の同様の格好をした女性が受け持っていた。

 どうも口開けの様子。そりゃあそうだよ、今はまだ5時半。カウンターの入り口に近い端に座り、まずは瓶ビール。壁に掛かったホワイトボードを見て、白和えも。おでんは、里芋、ギョウザ(また!)、それに自家製はくしか揚げ。芋とギョウザはまだ味がしみていないそうで、ではと、たまごをもらう。

 常連らしきおじさんが1人、入ってきた。ちらりとわたしの方を見やりながらコの字の反対端に座る。女性陣と打ち解けた感じで賑やかに会話が始まる。こちらも、札幌から来たことなど話す。頼んでおいた芋とギョウザを平らげる。昨年おじゃました「桃若」といい、長崎にはおでんの名店がそこここにありそう。ごちそうさまでした。

 次は、浜屋の裏にある大衆割烹「案楽子(あらこ)」。年配のご夫婦と、なにやら玄人風のカップル(?)の間に空いていたカウンターの一席に通される。ここでは最初から焼酎をもらう。「お湯割りで」「麦?芋?」「麦で」。長崎では麦焼酎のシェアがなかなか大きいらしく、見た感じではあるが、飲み屋にキープされているボトルの半分が黒霧島、残り半分が壱岐の麦焼酎。

 カウンターの目の前にあるガラスケースには、アジ、サバ等々の魚。魚にまじって、はじっこにネギ巻きが山と積まれている。細ネギ(わけぎである。九州ではこれを普通の「ネギ」と呼び、根深ネギなどを「太ネギ」と言うらしい)を湯がいて、白い部分に青いところをくるくるとまきつけたものだ。熊本に行った時には「一文字グルグル」とか呼んでいたと思う。懐かしかったので頼むと、酢味噌が出てきた。口の中で噛むとキュッキュと心地よい。

 ネギ巻きの後ろにはなにやらふわふわした白いものが。「なんですか」「鯨のオバです」。いわゆる、さらしくじらである。長崎、特に、昨日訪れた平戸の方は昔から鯨漁で有名であったため、今でも長崎では鯨を食わせる店は多い。ここはぜひひとつと、オバをもらう。ネギ巻きの酢味噌で食べてみる。口の中でぷりぷりとしてまた乙なもの。

 最後に刺身盛り合わせをもらう。厚く切られた身はプリプリ。おいしいなあ。

 店を出ると、夕陽はとうの昔に沈んでいた。

 銅座通りを冷やかしながらふらふらと。目についた、「雲龍亭籠町店」についつい。さっき食べたではないか。本店との味比べである。

 壁のメニューを見ると、本店よりも50円ばかり高いのが気になる。目と鼻の先なのだが、何が違うのだろうか。ここではまずは焼酎お湯割り、それに「キモテキ」(レバーのソテー)を。キモテキうまい。勢いをつけて、餃子も1人前もらおう。うん、ここのはさほど脂が臭くない。が、やっぱり餃子が小さくて物足りない。後から店に入ってきたおじさんは、テーブルに着く前に「餃子3人前」とオーダー。ここではそれくらいの量を食べなければ満足できないということだろう。

 店のある船大工町から正覚寺のある小高い丘はびっちりと建物で埋まっている。その間隙を縫う路地をぶらぶらと登る。ほどよいところで折り返し、丸山町へ。古い建物が並ぶ情緒のある通り。ここは江戸の昔、花街のあったあたり。今でもその名残はそこかしこに残っている。さあ、そろそろ締めにかかろう。

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 再び思案橋横丁へ。さきほどの「はくしか」で聞いていた、「昔ながらのちゃんとしたちゃんぽんを食わせる」という「康楽(かんろ)」にふらふらと入る。長崎らしく、ちゃんぽんで締めようと思ったのだ。黄色い、太い麺をぞろぞろとすすりながらテレビにぼうっと眺め入る。

 酔い覚ましに、誰もいない中華街を抜け、出島まで歩く。港からの風が心地よい。

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