晴れやかな日々

北海道は一年でもっとも爽快な季節を迎えています。

この2~3年,このブログの執筆を控えておりました。というのも,翻訳と著書の執筆という「仕事」を抱えたまま手放せずにずっとおり,それが終わるまでは,と労力を割かずにいたからです。依頼をしてくださった方も,ブログを書くヒマがあったらこっちを,という気持ちになるでしょうから,なかなか書けずにいたのです。

そのうち1冊はすでにひつじ書房より「子どもの発達とことば」と題されて発行されました。ただ,売れ行きが覚束ないらしく,それもこれも我が身の浅学菲才をただただ恥じ入るばかりです。ともあれ人生初の単著ですからなんとか売れて欲しい。

年末から正月にかけては翻訳にかかりきりでした。最近,パフォーマンスをキーワードとして心理学の刷新を図ろうとする動きがあらわれているのですが,その一翼を担おうかという本です。これも5年前くらいからぼちぼちと訳していたのですが,訳しませんかとお誘いいただいた先生よりハッパをかけられ,実家に帰省したタイミングで家の片隅に引っ込み(子どもの世話を家人に託し)訳していました。それも3月頃,出版社に送ることができ,ただいま訳のチェックをしていただいているところ。

そして,3年前からずっとかかりきりになっていた2冊目の単著を,つい先日,とりあえず頭からおしりまで埋めて,編集担当の先生にお送りしました。現在閲読をいただいているところです。新学期が始まってからというもの,平日休日問わず,午前中はスタバでパソコンを広げ,午後は「書けない!」と叫んでビールを飲んで寝るという生活を送っていましたが,それももう終わりました(実際にはまだ終わっていないのですが)。

こんなに晴れやかな気分はほんとうに久しぶりで,文献やら資料やらが山のように積み重なり魔窟のようになっていた研究室を,ようやっと掃除し終えました。ここで冒頭に戻りますが,季節の爽快感と相まって,いま本当に人生の幸福をかみしめています。

〆切のない人生とはかくもありがたいことか。

それもこれも,とにかく構想ばかり大風呂敷で,そのくせ力量の伴わないことにばかり足をつっこみ,しかも妙な完璧主義もあり,要は遅筆の質が悪さをしているのです。「気楽に書けばいいんです」というアドバイスもいただくのですが,そういう質の人にはかえって「気楽とは何か」を考えさせる悪循環のきっかけにしかならず,まあどうしようもない。

結果的に,白い原稿用紙は残されたまま,ストレスばかりがたまり,酒量は増え,3年前から7キロの体重増となりました。まあ痩せるよりは健康的だろうとよくわからない言い訳をして開き直っています。

4月からは新たなプロジェクトがいくつも立ち上がり,お陰様で年相応に忙しくしております。秋からはサバティカルとかいうやつで,研究だけに専念できるわけです。ちょうどよいタイミングで,これからの1~2年はアウトプットではなくインプットに集中することができます。

まずは(誇張ではなく)300冊近くにふくれあがった積ん読をやっつけ,たまったビデオデータをやっつけ,そして,プロジェクトを方向づけられるようにがんばって参る所存です。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

【学会】日本発達心理学会第30回大会に参加します

2019年3月17日~19日の日程で早稲田大学戸山キャンパスで開催される日本発達心理学会第30回大会にて,下記のシンポジウムに参加します。

BS1 3月17日(日) 15:00-17:00 34号館453
日本発達心理学会企画シンポジウム
デジタルが変える子どもと高齢者の世界:認知・社会性の発達から社会的ネットワークまで

企画:日本発達心理学会編集委員会
司会:坂田陽子(愛知淑徳大学)
司会:島田英昭(信州大学)
司会:久保南海子(愛知淑徳大学)
話題提供:片山敏郎(新潟市立新潟小学校)
話題提供:中島寿宏(北海道教育大学)
話題提供:伊藤崇(北海道大学)
話題提供:日下菜穂子(同志社女子大学)
指定討論:楠見孝(京都大学)

【イベント】シンポジウムに参加します

下記のシンポジウムにて指定討論を仰せつかりました。

心理科学研究会北海道地区・日本発達心理学会北海道地区懇話会・北海道大学子ども発達臨床研究センター 合同企画シンポジウム

縮小する社会のなかで発達をどう捉えるか
-ジャネ・ワロンの発達理論を手がかりとして-

日時:2019年2月23日(土)15時-17時
会場:北海道大学 子ども発達臨床研究センター3階 C302
企画:及川智博(北海道大学大学院教育学院D3/日本学術振興会)・加藤弘通(北海道大学大学院教育学研究院)
話題提供:間宮正幸(北海道大学名誉教授/共育の森学園理事長)
指定討論:伊藤 崇(北海道大学大学院教育学研究院)・石岡丈昇(北海道大学大学院教育学研究院)

●参加方法

参加費用:無料

参加方法:資料や会場の関係から,事前の参加登録をお願いしております。下記URLより参加申し込みをお願いします。

申し込みURL:https://goo.gl/forms/iMEdOfHOGLiLn8Qf1

【出版】項目を執筆した辞典が出版されました

執筆に参加した辞典が出版されました。

能智正博(編集代表)・香川秀太・川島大輔・サトウタツヤ・柴山真琴・鈴木聡志・藤江康彦(編) (2018). 質的心理学辞典 新曜社

伊藤は,「意義と意味-ヴィゴツキーによる」「異種混交」「多声性」「発達の最近接領域」「発話」「文化的透明性」「分析単位」の7項目を担当しています。

日本で初めての「質的心理学」の辞典です。お手にとっていただければさいわいです。

サイレンの日々

最近はずっと,部屋の中にいるとどこかでいつも消防車だか救急車だかパトカーだかのサイレンが鳴っている,そんな状況でした。

久しぶりの更新です。

ただいま2018年9月10日早朝です。さかのぼること5日前,9月4日夜から5日朝にかけて,台風21号が北海道の西側を通りすぎました。

4日朝から四国・近畿に甚大な被害をもたらした勢いをほぼ保ったままの風は,夜の間ずっと吹き続けていました。ベランダに置いておいたポリバケツががたんがたんと倒れるので,家の中に取り込んでおきます。

明けて5日に大学へ行ってみると,構内の木の枝が地面に散乱していました。それだけでなく,何本かは倒れてしまったようです。あちこちでチェーンソーで落ちた枝や倒れた木を切る音が響いていました。

やれやれと,台風一過のむわっとした空気を浴びながら布団に入った夜中の3時。体が揺さぶられる感覚と同時に枕元に置いておいたスマホからビヨビヨビヨと警報音が流れてきたのに気づきました。

時間にしてどれくらい経ったのか分からないのですが,そのときはああ地震だなあくらいに軽く考えていました。

上の子どもが起き出すのに気づいたのでリビングに行ってみると彼がつけたテレビから地震速報が流れています。震度6という数字が画面の隅にちらりと見えたかと思うと,突然ぷつっとテレビが消え,室内の明かりも消えました。窓の外も真っ暗となり,音もなくなりました。

このときは,まあすぐに電気は戻るだろうと思いましたが,まさか全道で停電という事態だとは知らず,結局復旧したのは次の日,7日の朝のことでした。それでも6日の夜は電気なしで過ごさざるを得ず,味付けのりの空き容器にローソクを立てて部屋のあちこちに置いて明かりを採りました。

子どもを連れて公園に行ってみますと,そこの水飲み場にはポリタンクやら空いたペットボトルやらをもった近所の方が列を作って水を汲んでいました。この地域の水道管自体がどうこうなったわけではなく,ポンプなどを使っているのでしょう,電気が止まると水も止まる家庭がある,ということです。幸いにして,自分の住んでいるマンションのガスと水道は問題なく使える状況でしたが,いつどうなるか分からないということで風呂に水を貯めておくことに。

この間冷蔵庫にあるものを細々と食べて過ごしました。ガスも問題なく使えたので,ご飯は炊けましたし(うちはガスで炊いていたのです),冷たいものを温め直すときにはフライパンに入れて蒸しました。IHのコンロを使っていたお宅は大変だったのでは,と思います。

9日までにライフライン関係は大きな被害を受けた地域以外は復旧したように感じます。しかし問題は物流,特に食料で,コンビニの食料の棚はほぼどこも払底していました。スーパーがかろうじて生鮮品含め置いている程度ですが,それでも通常の4~5割の量でしょうか。しかも高い。

これ以上大きな地震が起こらない限り,今週なかばには台風と地震以前の生活に戻れると思うのですが。

【出版】単著が出版されました

はじめての単著が出版されました.

伊藤崇 (2018). 学びのエクササイズ 子どもの発達とことば ひつじ書房

私が担当する北大教育学部の講義「言語発達論」のテクストとして書かれたものです.

教科書として用いることはもちろんですが,「ことばの社会化論」(language socialization)におけるさまざまなトピックを概観することができるようになっていますので,そうした領域に関心のある方が自分で読むのもよいでしょう.

一語文や喃語やウェルニッケ野やディスレクシアや使用基盤文法など,言語発達についての典型的な教科書なら取り上げるはずの概念は,本書ではいっさい取り上げられていません.そんな,いっぷう変わった本にご興味のある方,ぜひお買い求めいただければと思います.

【告知】【書籍】もうすぐ本が出ます

来月,ひつじ書房様より,伊藤の執筆した本が出ます.

Amazonではすでに予約可能になっているみたいです.

学びのエクササイズ 子どもの発達とことば

以下目次です.

1 ことばの発達を考える~ことばの社会化とは何か
2 赤ちゃんに話しかける~文化間の多様性,文化の中の多様性
3 会話に巻き込む~会話の秩序とその理解
4 マネは創造のタネ~うながし,参与枠組み,ルーティン
5 感じ方を交渉する~感情と道徳のことば
6 「公」と「私」の使い分け~スタイルシフト
7 私はことばでできている~語りへの子どもの関与
8 小さな文化を創り出す~ピアトークの意義とは
9 女の子が下品なことばを言うのはダメなのか~ジェンダー実践と言語イデオロギー
10 実践としての書きことば~リテラシー・イベントへの参加
11 二重の有能さを示す~学習言語とIRE/F連鎖
12 いくつもの目的を同時にめざす~教室内のことばの多層性
13 2つのことばの真ん中で~バイリンガルとコードスイッチング
14 ことばのあいだに立つ私~継承語とアイデンティティ 

乳児期から思春期の子どもが用いることばの多様性とその変化について,主に「ことばの社会化論」(language socialization)の観点から一貫して描いた,(おそらく)国内初(と思われる)本です.

言語学的に言えば,言語構造ではなく言語機能に焦点を当てています.領域的には社会言語学の一分野です.

心理学的に言えば,社会や文化の中での発達過程に焦点を当てています.

社会学的に言えば,大人が子どもをことばを通して社会化する過程と,子どもがことばの使い方の点で社会化する過程に焦点を当てています.

学部の講義の教科書として書いたものですが,上記のように多分に偏った見方に基づいたものなので,その点は注意してください.既刊のさまざまな言語発達の教科書の中の1つとして扱っていただくのがちょうどよいように思います.

どうぞよろしくお願いいたします.

【告知】連続読書会開催します

質的研究のための理論入門―ポスト実証主義の諸系譜
プシュカラ プラサド
ナカニシヤ出版
売り上げランキング: 89,371

読むもの:プシュカラ・プラサド 箕浦康子(監訳) (2018年)『質的研究のための理論入門』ナカニシヤ出版

第1回 2018年 5月10日 企画趣旨説明
第2回 2018年 5月24日 1章,2章,3章
第3回 2018年 6月 7日 4章,5章,6章
第4回 2018年 6月21日 7章,8章,9章
第5回 2018年 7月12日 10章,11章,12章
第6回 2018年 8月 2日 13章,14章,15章

ご参加の場合は,あらかじめ tito@edu.hokudai.ac.jp までご連絡いただけると助かります。

【研究】【論文】執筆過程に参加した論文が出ました

この5年ほどセンシングツールを用いた授業中の行動の計測に血道を上げているわけですが,そのツールを用いる上で必要な基本データがそもそもないというところで逡巡していたところ,国立教育政策研究所の山森先生が率先して動いてくださいました。本当に感謝しております。

で,その成果が論文として出版されました。ぜひご覧ください。

山森光陽・伊藤崇・中本敬子・萩原康仁・徳岡大・大内善広 (2018). 加速度計を用いた小学生の授業参加・課題従事行動の把握 教育工学会論文誌, 41(4), 501-510.

【イベント】【告知】発達支援フォーラム 2018spring 異年齢・異学年から子どもの育ちと学びを考える~「あこがれ」と「いたわり」を越えて

保育所,幼稚園,小学校,中学校,そして高校にて展開される異年齢・異学年での学びとはいったい何なのか?その疑問に対して,さまざまな場で実践に携わる方々にお話を頂く機会をいただきました。

ぜひご参加ください。なお,本件お問い合わせは本サイト管理人dunloe.ito at gmail.com(atを@に変えてください)まで。

チラシ(pdf)

日時 2018年3月17日(土)14:00~18:00 ※開場 13:30
会場 北海道大学教育学部 3階会議室

プログラム
司会進行 伊藤 崇 氏(北海道大学大学院教育学研究院・准教授、言語発達論)
1.実践報告
(1)発寒ひかり保育園(園長・吉田 行男 氏、副主任保育士・家村 維人 氏)
テーマ「みんなきょうだい大きな家族:赤ちゃんからの異年齢保育と多世代交流」
(2)美晴幼稚園(園長・東 重満 氏、主任教諭・中川 絵理 氏)
テーマ「多様性の中で育ち合う異年齢クラス保育」
(3)香川大学教育学部附属高松小学校(教諭・橘 慎二郎 氏、教諭・前場 裕平 氏)
テーマ「分かち合い,共に活動や価値を創造する異年齢集団の歩み:壁やイレギュラーとの対峙の中で,自己の生き方・在り方を見つめ直す」
2.ショートレクチャー&コメント
篠原 岳司 氏(北海道大学大学院教育学研究院・准教授、学校経営論・教育行政学)
テーマ「教育行政研究の視座から:中学校・高校における異年齢・異学年教育の動向をふまえて」
3.総括コメント
川田 学 氏(北海道大学大学院教育学研究院・准教授、乳幼児発達論)

【主催】 北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
【付記】 本企画は、科学研究費補助金基盤研究(B)「異年齢期カップリングの発達学:子どもの生きづらさを超えるための学際的協働」の助成を受けています。