野火的研究会でホルツマンを読む(2)

Vygotsky at Work and Play

 まずはじめに確認しておいた方がよいのは,ホルツマンが「発達心理学者」である,ということです。研究者として最初にトレーニングを積んだのが,言語発達心理学者のロイス・ブルーム(Lois Bloom)のもとでであったこと,次いで彼女がマイケル・コール(Michael Cole)らのプロジェクトに参加したことは無視できないことです。つまりは,日常的な文脈における子どもの発達や学習を見つめることが,彼女の基礎にあるのです。

 発達を理論化することは想像以上に難しいことです。例えば私たちはすぐに到達点からの眺めでもって,その道中を理解しようとしてしまいます。こうした発達観は,ピアジェのような発達段階論に見られます。子どもが「知的な」大人になる過程はどのようなものか,という問いのもとで,子どもの一挙手一投足が知的・非知的という網の目にかけられる。ある子どもの行ったことは,将来なるべき「知的成人」の種として解釈されるわけです。

 こうした理解の仕方を批判する研究者に浜田寿美男さんがいます。彼は,子どもは大人になるために生きているのではないと端的に批判し,不確定な未来に向かっていまここでもがき続ける子どもという観点から発達を描き直すことをもくろんだのです。

 ホルツマンが本書で展開しているのも実は同様の発想に支えられています。ただし,相当ポジティブな発想です。発達は不確定な未来に向けて一歩ずつ歩いていくようなものですが,その不確定性を不安なものであるとか,排除すべきものであるとかとは考えません(不確定な未来を排除する発想は,早期教育の典型的な前提でしょう)。むしろ,不確定ならば自分たちのいいように作っていけばいいじゃない,と発想を切り替えます。つまりは発達を創造的過程と捉えるのです。

 ホルツマンの発想が基づくのは,ヴィゴツキーの発達理論です。そこから彼女が何を学び取ったのか,次から検討していきましょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA