004-暮らしの中のモノ

宮本常一 1985 塩の道 講談社

 講談社の学術文庫の一冊。宮本晩年の講演「塩の道」「日本人と食べもの」「暮らしの形と美」の三本が収められている。

 本書の醍醐味は,日本人の暮らしをモノの流通から解き起こす点にある。暮らしとはいえ,話の範囲は,古く大陸から民族が稲を携え九州に上陸したところから現在に至るまでと広い。しかも,民族の歴史とひとびとの暮らしとモノの由来とが宮本の手によって流れるようにつなぎ合わされていく。その手際のよさ。講演であるためやさしい話し言葉だということもあるのだろうが,すいっと読まされてしまう。

 手際の良さは,たとえば,「暮らしの形と美」ではこのようである。平安期の寝殿造りの家屋には,外と内との境に「蔀(しとみ)」が下げられていた。こうした蔀戸は近代まで漁村などに見られたという。ところでこの起源は意外にも,船にあるのだそうだ。船上に住む人というのは,現在でも中国や東南アジアに見られる。底の平たい船に小屋をしつらえてそこに家族で住んでいる。かつて大陸から日本に渡ったのは,このように船で暮らすひとびとだったのではないか,というのが宮本の推測である。というのも,蔀はこうした船上の小屋に使われているものだからだ。つまり,船で使っていたものを,陸上に生活の拠点を移した後も使い続けたというのが,平安期の蔀の由来なのだという。この説を支えるかのように,船上生活していたひとびとはかつて入れ墨をし,潜って魚を捕っていた。「魏志倭人伝」にある倭人の描写そのものである。

 真偽のほどはともかく,ひとびとの暮らしを,モノの来歴や技術の伝播からきちんと説明しようとしたことこそ本書で味わうべき点だ。「ものというのは変わりにくいものではないか(p.183)」と言う。道具は使い続けられる。言葉も同じなのだ。

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