のんべえというのはいろんなところで保守的なものだ。飲む酒の銘柄も、頼む「あて」も、だいたい決まっていて、それ以外に手を伸ばすのをためらう。それは身銭をはたいて飲む者ならでこそで、要は慣れたうまいもので精一杯楽しみたいのだ。
だから、好みの銘柄や料理が置いてあることがあらかじめ分かっている店に、どうしても足が向く。もちろん、ちょっと今日は気分を変えて、なんていう日もあるにはあるが、入ったことのない店の窓から中を眺めて「うん、客が入ってないからきっとまずいんだろう」とか、のれんの下の盛り塩を見て「なんだか値が張りそうだ」とか、なにくれと理由をつけて逡巡し、結局勝手知ったるいつもの店に落ち着いてしまう。
たらたらと書いてきたが、飲む店の新規開拓というのはのんべえであればあるほどしにくくなるのである。
そんな、めったにないのをしてきたのはこの間のこと。
ところは札幌駅北口、飲食店の何軒か入った小さなビルの1階でつましく開いている。前を通りかかって、何の気なしにのれんをくぐると、中はカウンターと奥に1卓のみ。
切り盛りしているのは、おかみさん、と言うよりはお母さんと呼びたい方。料理はすべてお母さんの手作りで、化学調味料などは自分が苦手だから一切使わないとのこと。
座ってビールを頼むと、小皿や小鉢に盛られたその料理がぞろぞろと出てくる。店にメニューはなく、その日その日で変わる料理をちょっとずつつまみながら酒を飲むというのがここのスタイル。食い物の好き嫌いが多いとつらいかもしれないが、こちとら何でも食べられるうえ、肝心の味にも外れがないので、メニュー片手に悩まずにいられる分、楽かもしれない。
値段については安心していい。飲めば飲むほど安くなるという不思議なシステムで、先日は、日本酒、焼酎それぞれ1杯ずつに生中とグラスビール、それに、小皿料理が6品ほど出てきて、2500円なり。
たまに保守の殻を破るとこういういいことがある。