10分でわかる心理学?

 今日明日と大学のオープンキャンパス。ただし、本学部は1日のみの開催となる。学部長挨拶から学部説明、質問コーナーという流れを午前午後と繰り返す。

 午前中は180人近く、午後は100人近くが集まってくれた。例年にない盛況。大学全体で力を入れているイベントなので、おそらくは全体的な参加者数が増えているからだろう。

 本学部には、教育基礎論系、教育社会科学系、健康体育学系、教育心理学系の4つのコースがある。ぼくの出番は、10分間で心理学系を説明すること。

 ざっとゼミについて説明した後、なぜ教育学部に心理学研究者がいるのかについて話す。このテーマ、深く詳しくつっこむとなかなかややこしい話なのである。が、おおざっぱにはしょって、次のように説明した。

 心理学の目的は、『人間とは何か』という哲学的な問いと、『どうしたらよりよく生きられるのか』という実践的な問いの、両方に答えること。真善美で言えば真と善だ。

 教育学部の心理学は、哲学的な問いに答えるなかで見つかった研究結果に基づいて、教育という実践をよりよくおこなっていくための方法を探している。

 例を考えてみよう。次の映像を見て欲しい。これは心理学の実験に基づいてつくられた、イギリスのCMだ。白い服を着たチームと、黒い服を着たチームの2つがある。今からチームごとにバスケットボールをパスし合うので、白い服を着たチームが何回パスをしたか、数えてみよう。数えた後で、もう一度、今度はぼんやりと映像を眺めてみよう。最初に見たときには気づかなかった、何かが見えなかっただろうか?

 

 この実験は、数を数える能力を測定しているわけじゃない。人間が「注意を向ける能力」の限界を調べている。つまり、あることに注意を向けていると、他のことに注意を払えなくなるという限界だ。

 正常な人間は、周囲の出来事を正確に知覚し、認識し、判断しているというふうに思われている。しかしそういう人間像は誤りで、ちょっとしたことで知覚や認識があやふやになってしまう。人間とはそういう存在なんだ。これが哲学的な問いに対する答えのひとつ。

 そしてこうした答えから、次のような実践的な答えが出てくる。例えば交通安全教育。歩行者やサイクリストは、自動車の運転手からは自分の姿がよく見えていると考えている。だから車道にはみだしても、相手がよけてくれるだろうと思ってしまう。だけど、さきほどの実験映像から考えると、ちょっとしたことで運転手の知覚から歩行者や自転車の姿が消えてしまうことがありうる。ケータイで話していると、あるいは、カーステレオのCDを入れ替えていると、注意がそちらにいってしまって、車外の出来事に気づかなくなってしまう。見えているのに、見えなくなってしまう。

 だから、運転するときには運転だけに専念しなければならないし、道を歩いたり自転車で走ったりするときには「自分は見えているはず」と思ってはいけない。

 教育学部の心理学においては、このように哲学的な問いと実践的な問いがからみあっている。

 ここまでまとまっていたわけではないが、まあこんなことを話した。映像は一発芸みたいなものだが、高校生にはよく受ける。
 
 ちなみに、この映像には元ネタがある。論文は、Becklen, R., & Cervone, D. (1983). Selective looking and the noticing of unexpected events. Memory & Cognition, 11, 601 – 608.

 

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