食材生産の現場をかいまみる

 近所のレンタルビデオ屋に、ドキュメンタリー映画のDVDがじわじわと入荷されつつある。テレビにおけるドキュメンタリーばやりと何か関係があるのか?ともかく、ドキュメンタリー好きなのでこの動きはありがたい。

 最近見たのは次の2本。

 まず1本目、『おいしいコーヒーの真実』のキーワードは、「フェアトレード」。

 おいしいコーヒーの真実 公式サイト

 コーヒーショップで売られているコーヒー1杯の値段が330円だとして、そのうちコーヒー豆の生産農家が得られる額は多く見積もっても9円だそうだ。330円の大半、というか9割方を取っているのが輸入業者と小売。これはあまりにも不公平だ、輸入する企業が一方的に不当な安価をおしつけているのだ、という声から出てきた概念がフェアトレード。

 輸出業者の中にも、豆があまりにも安く買いたたかれていると感じる人がいるようで、映画の中ではなるべく「適正価格」になるよう世界各地を飛び回って努力する業者(タデッセ・メスケラ)の姿が描かれている。

 「コーヒーショップで働けてよかった!」とニコニコするスタバの店員の顔が映ったすぐあとに、「俺はコーヒー作りはやらない。暮らしていけない」と呆然とするエチオピアの農家の顔が映る。映画はこのような落差を通じて観る者になんらかの感情を起こすわけである。

 もう1本、『いのちの食べ方』。

 いのちの食べ方 公式サイト

 静かな、本当に静かなドキュメンタリーである。人間の声はほとんど入っていない。聞こえるのは、機械のたてる音と、動物の鳴き声だけ。

 別に今更、という感じではある。たとえばニワトリを絞めるであるとか、ブタのキンタマをぶっこぬくとか、ウシをノックするとか、ショッキングな映像としてはそのあたりだろうが、それらは田舎の人間であれば今でも日常的に行うことだ。

 そうしたことが、機械の力を借りて、とても楽に、しかも大量に可能になっていることが描かれる。機械化万歳である。だって、ウシ1頭を人間の手だけでさばこうとしたら、相当きつい。1人か2人は足で蹴られる。だから、動物が工場のような場所で機械的にさばかれていること自体は、しかたのないことだ。

 そのことは、コストの面にも反映される。人の手を入れない分、コストを削減することができる。大量に飼育し、大量に栽培し、一気に食材化することで、コストをぎりぎりまで落とすことができる。

 要は、食材に関してはそうまでしないともうけは出ない、ということなのである。大量に栽培しているわけでもないし、機械を導入しているわけでもないエチオピアのコーヒー農家に、もうけが出ないのもむべなるかな。

 言いかえれば、私たちは、食材に対して金を払わないということでもある。マルクスのひそみにならえば、食材の使用価値に対する、その交換価値の相対的な低さと言えるだろう。

 安く買いたたかれるか、コストをかけずに大量に生産するか。食材の生産に携わる世界中の多くの人々の置かれている現状が少し見えてきた気もする。

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