014-言葉、言葉、言葉

柳瀬尚紀 2003 言の葉三昧 朝日新聞社
柳瀬尚紀 2002 猫舌三昧 朝日新聞社
McHugh, R. 1980/91 Annotations to Finnegans Wake. Baltimore : John Hopkins University Press.

 私は将棋も競馬も知らない。美味い物と猫とシェイクスピアは少々。ジョイスとキャロルは下手の横好き。この横好きが高じて柳瀬さんの本に目を通す。辞書はどれも「一長一長」と言い切るのは,「自分があまりにも無知だから」。無知にかけてはひけをとらぬ当方,度が過ぎるので無知や朽ちやと念願するばかり。

 このエッセイ,朝日新聞夕刊ですでに連載100回を越えたとあり,単行本も2冊出た。買ってきたらすぐに頁を開き一気に読みおおす。読みやすいのは著者がいつも音楽を背景にリズムよくキーボードをたたいているからだろう。リズムある文体なのである。ご本人も井上ひさしを引いて言う,「文体がないと書けない」。うむ,まさにその通り。

 さて近刊の帯にはDemoncracyなる単語が見える。Democracyも魔が差せばDemoncracyか,Finnegans Wakeに一度だけ出てくる,とあるな。どれどれ…あ,あった。167頁。 My phemous themis race is run, so let Demoncracy take the highmost! 柳瀬訳では「わが演題なるテミスの掟の命のつきたれば,悪魔クラシーの至高の座におさまらん!」 McHugh(1980/91)の注釈によれば,phemisはギリシャ語で演説,Themisは神罰を象徴するギリシャの女神で,これがラテン語になると法律の意。let Demoncracy take the highmostには,英語のことわざThe devil take the hindmost.(遅れた者は知ったことじゃない,転じて早い者勝ち)が隠れている。正義が失われるとき,民主主義万歳と言うその裏で弱き者は去れ,と演説する悪魔が現れるのだな。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA