竹の男

 団地のリビングの床がフローリングなのだが,歩き回る音が下の部屋に聞こえないようにコルクマットを敷いている。

 そのコルクの表面がはげてきたのでなんとかしなければと8畳敷きのゴザを買ってきてマットの上から敷いたのが2年ほど前。

 そのゴザも当初は青々としていたのが枯れ果て,草の繊維がほぐれたのが歩くたび寝そべるたびに住人の体について部屋のあちこちに飛散するようになった。

 意を決して新しいゴザをジョイフルに買いに行った。

 ゴザにもいろいろあり,中国産のい草を使って中国で作ったもの,ポリエステルの繊維で編んであり丸洗いできるもの,中国産のい草を使って中国で作り,なおかつ謎の成分を散布しているらしきもの,中国産のい草を使って日本で作っているものとある。

 値段は上記順番で高くなる。最安値で7千円弱,最高値で1万4千円弱。倍ほども違う。

 ここでしばし逡巡するのが小市民の致し方ないところである。

 今の団地に永遠に住み続けることはありえない。引っ越すことを考えると,おそらくこのゴザは廃棄物となる運命だろう。そのような運命を与えられたものに1万強出すべきか。

 かといって安ければいいというものだろうか。もっとも値段の安いゴザを見ると,陳列されている時点でもうすでにけばの立っているものもある。部分的に色の褪せているものもある。あせているのではなく,緑色の濃い部分に何かが塗られているようだ。

 悩んだ末に出した結論は,真ん中を選ぶこと。中国産のい草を使って中国で作り,謎の成分を散布しているらしきものを購入した。

 梅竹松とあれば竹をついつい選んでしまう男。見栄っ張りでケチという相矛盾する方向性が同居する人間に,竹はちょうどよいのである。

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