啓蟄

 このところの日の照り方はすっかり春だ。街場の根雪はほとんど融けて、道路の端に集められていた雪の山の根の方からはちょろちょろと水が流れている。雪に押し潰されて茶色く変色した落ち葉のあいだから薄緑色をしたふきのとうが顔を出す。

 もう冬の装備も要らないだろうと、近所の車屋に行って新品の夏タイヤに履き替えてきた。スタッドレスのあのベタベタとまとわりつくような乗り心地から解放されて気分もいい。

 冬の間巣ごもっていた生き物もぼちぼちとわたしたちの視界に戻り始めた。公園の川にカモが泳いで、必死になにやらついばんでいる。

 動物だけではない、人間の子どももそうだ。

 団地の小さな公園に、地面を覆っていた雪がなくなると、近所の子どもたちがわらわらと戻ってきた。自転車のペダルをぐいぐいと踏み、ぬるんだ空気を切り裂いて駆け抜けてゆく。ブランコには二人乗り、すべり台はすべる方から登る。冬の間できなかったことを、存分にやっている。

 うちの子どもも同様で、外に出たがる。おんもに出たいと泣いていたわけではないが、やはりどこかで春よ来いと思っていたのだろうか(実際は先週まで九州に行っていてすでに春を経験しているわけだが)。

 彼もひと冬でだいぶ成長したようで、昨秋はさほど興味を示さなかった自転車にやたらと乗りたがる(しかし自分でこぐことはできない)。子どもたちの集まる公園に行き、お兄ちゃんお姉ちゃんの集まりにやたらと顔をつっこみたがる。どんな集まりでもみそっかすであるし、相手にもされないわけだが、どう対応するのだろうと親は端から眺めるのみ。

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