藍よりも青い君

 今日は卒業式だった。

 学部の祝賀会会場へ踏み入れると、色とりどりの縮緬が視界を覆った。昨日卒業生に会ったので聞いていたのだが、朝5時起きで美容室に入るのだそうだ。どんな服を着ても良いのだが、服にはそれに見合うしゃべり方、笑い方、歩き方があるのだということは覚えておいてほしい。

 ゼミの4年生から色紙と記念品をいただく。みんなの手助けができたかどうか分からないけど、ありがとう。藍よりも青くなってくれ。

 それにしても、と毎年思う。

 昨年の2月頃には卒論など書けるのだろうかと部屋に来て悩みを口にしていた彼/女らが、いつの間にかそれなりに形なすものを書き上げ、それなりの評価を得る。これは目を見張る学習過程である。この過程を傍から眺めて分析できないかとも思うのだが、本人も必死、それを見守るスーパーバイザーも必死とあって、なかなかできないでいる。

 祝賀会を20分で辞し、研究会へ。

 埼玉県立大学から、小児看護を専門とされる徳本弘子先生と添田啓子先生がいらして、先生方が看護学生に行なっている実習の方法について意見交換。学生たちは乳児に触った経験がないか、ごく少ない。そういう現状のなか、実際の病棟に連れて行ってもよいくらいにまで、乳児の扱い方を習得させなければならない。これが先生方の抱えた問題である。

 学生さんたちはグループになって、喘息様の症状が見られるという想定で乳児の人形に対処する、という課題にあたる。体重や身長を測るんでも、体重計にタオルをどうやって敷くか、身長計にどう赤ちゃんを乗せるか、グループのなかで声をかけ合いながら作業を進めていく。ただ、ビデオを見ると、乳児の人形を抱く両腕の形がとにかくあぶなっかしい学生さんもいれば、しっかりと安定した抱き方のできる学生さんもいる。離れたところで作業するために、一次的に人形をテーブルの端に置く学生さんもいて、見ているこちらは思わず「うわ」と声を上げてしまった。

 もちろん子どもに接したことがないのだからできないのは仕方ない。しかし彼女らは(ビデオに出ていたのは全員女性だった)数日間の実習を通して、一通り赤ちゃんの扱い方を身につける。さらには、人形に一個の人格を見出すに至る(それを目論み、はじめから人形には「あっくん」という名前がつけられていた)。

 座学を通して一応の知識と基礎技能を学び、次の段階で演習を通して一連の身体技能を学び、さらに実習を通して現場での総合を試す。このように、場を横断することが看護教育の4年間を通して一貫しているのである。

 乳児保育を担当しているという保育士の方が、会に参加されていた。保育士の中には、2年間の教育を終えて現場に入り、突然生後半年ぐらいの子どもを受け持つことになる人もいる。そうした場合、びいと床で泣く赤ちゃんの枕元に棒のように立ちつくし、どうすればいいのですかという目で見る人もいるそうだ。しかたない、赤ちゃんを実際にあやしたことがなければ、やり方など分からないのは当たり前である。

 たぶん、2年間や4年間というごく短い期間で、「学習することを学習する」ように学生に仕向けなければならないのだろう。難しいけれど、現場に行って動けるようになるためには絶対に必要なことだ。

 研究会の打ち上げで、北大そばの居酒屋「しょうた」へ。これからの大学のあり方について、先生方が杯を傾けながらとりとめなく語り合うのを聞く。

 明日は朝5時起きで、美容室ではなく、青森へ。

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