riverrun, past Eve and Adam’s, from swerve of shore to bend of bay, brings us by a commodius vicus of recirculation back to Howth Castle and Environs.(FW 1)
riverrun: riverain(川辺)、riveran(イタリア方言で、「到着するだろう」)*1。
riverrun: 見た目は、riverとrunの合成。OEDには、nonce-word、つまり1回しか使われなかった語として登録されている。意味は、”The course which a river shapes and follows through the landscape. “ これはそのまま、FW冒頭のこのパラグラフがもたらす読みの1つのレベル、すなわちダブリン周辺の地誌を示す。とすると、riverはリフィー川を指す。
がしかし、あらゆる「流れるもの」の象徴と捉えておきたい。川の流れはもちろん、人類の起源から現在にいたるまでの歴史の流れ、人間のボディラインの流線型、そこから流れ出るあらゆる体液の象徴でもあるだろう。
Eve and Adam’s: ダブリン、リフィー川岸マーチャント・キーMerchant Quayにあるカトリック教会Adam and Eve’s。名の由来は、かつて教会に入っていたパブ(public house)。なぜ教会にパブが?リンク先の案内によると、どうやら法律(the Penal Law)でカトリック礼拝が禁止されていた頃に、建物がパブとして利用されていたらしい。
もちろん、聖書での最初の人類、アダムとイブも指す。しかしFWではイブとアダム、騎乗位になっている。
from swerve of shore to bend of bay: 岸shoreの曲がりswerveから湾bayの曲がりbendへ。sとbの頭韻にしたがって語が選ばれている。
by a commodius vicus of recirculation: 再循環するa commodius vicusにそって
commodius: commodious(広い)に、ローマ皇帝コンモドゥスがかけてある。
vicus: 地誌的にはドーキーにあるVico Road、同時にイタリアの思想家ヴィーコVicoも指す。ヴィーコの歴史循環説は、FWを支える思想的屋台骨でもある。「この本は全体がイタリア人思想家…の理論の上に成り立っているのですから」*2。これは、1940年1月9日付のジョイスの手紙の一節だが、「この本」とはFWを指し、「…」にはヴィーコが入る、とEllmanは言う。
vicus: ラテン語で「路、村」。vicus of recirculationは、vicious circle(悪循環)*1。
brings us … back to Howth Castle and Environs: ホウス城周辺へとわれわれを連れ戻す。
Howth Castle: ダブリンの北東に位置するホウス岬に建つ城。
Howth Castle and Environs: なぜEが大文字に?HCEを強調するため。HCEとはFWの主人公、Humphrey Chimpden Earwickerのイニシャル。これは同時に、Here Comes Everybodyの略。つまりは、この世に来るすべての者のこと。
*1 McHugh, R. 1980/91 Annotations to Finnegans Wake. Johns Hopkins University Press.
*2 Ellman, R. (Ed.) 1976 Selected letters of James Joyce. Faber and Faber. p.403.