ビッグデータの保育・教育への応用に関する公開研究会を開催いたします。多くの方のご参加と熱い議論をお待ち申し上げております。
北海道大学 教育学研究院 乳幼児発達論研究グループ主催 公開研究会
「保育・教育分野における人間行動ビッグデータ活用の方向性を探る」
近年の情報科学技術の革新的な進歩にともない,人間行動の隠れた側面が次々に明らかにされています。国内の動向だけを見ても,こうした技術を社会的インフラに組み込むことを目指す研究プロジェクトがいくつも立ち上げられています。
その中にあって,(株)日立製作所が開発した「ビジネス顕微鏡」は人間行動の隠れた側面を比較的容易に記述・分析可能なツールとして注目を集めています。実際に,保育や教育実践における遊びやコミュニケーションの質評価に関する研究が,近年,様々な大学・研究機関の研究者によって開始されており,一定の成果をあげつつあります。
しかし,保育・教育分野においてはビッグデータの利活用に関する議論は端緒についたばかりです。多くの研究者が研究に参入し,盛んな議論が始められる転換点に私たちは立っているものと思われます。学際的研究領域において蓄積されつつある膨大な知見を確認し,現実社会の様々な実践領域への応用を加速するためには,その契機となるような共同討議の場が必要です。
そこで,特に保育と教育分野における人間行動ビッグデータ可視化技術の利活用に照準を合わせて最先端の知見を紹介するとともに,近未来の日本の教育を改善するための具体的方策についてオープンに議論する公開研究会を企画いたしました。多くの方のご参加と活発な議論を期待いたしております。
なお,本研究会は2014年度北海道大学包括連携等事業の支援を受けて実施されます。
開催概要
日時 2015年2月28日(土) 13:00~17:30 (12:30より開場)
会場 北海道大学教育学部 3階 大会議室(札幌市北区北11条西7丁目)
発表題目
「幼稚園児の集団形成および園内行動の可視化」
花井忠征(中部大学 教授)・山本彩未(中部大学 講師)
「保育・幼児教育の実践への示唆」
川田 学(北海道大学 准教授)
「遺伝子と情報:Gene Matched Networksとコミュニティー解析への応用」
八木 健(大阪大学 教授)・木津川尚史(大阪大学 准教授)・合田徳夫((株)日立製作所)
「ビジネス顕微鏡を用いた授業分析の可能性」
伊藤 崇(北海道大学 准教授)
コメンテーター
山森光陽(国立教育政策研究所 総括研究官)
後藤田 中(国立スポーツ科学センター 研究員)
※参加費無料
※参加ご希望の方は,申込ページ(http://goo.gl/i6cZ9i)にアクセスしてお申し込みください。
※お問い合わせ先:伊藤崇(tito@edu.hokudai.ac.jp)011-706-3293
発表要旨
「幼稚園児の集団形成および園内行動の可視化」
花井忠征(中部大学)・山本彩未(中部大学)
幼児の行動や集団形成に関する研究は,観察法やビデオ画像分析による行動軌跡図式化やソシオメトリーの図式化によって古くから分析されている。しかし,定量データを分析し,行動軌跡や集団形成とその変化を可視化・ 定量化した報告はない。そこで本研究は,試行的に,自由遊び時間における遊具遊びや運動遊びの行動と集団形成の変化を可視化・定量化し,その実態を検討した。本発表では,実態の報告とともに,今後の課題について考える。
「保育・幼児教育の実践への示唆」
川田 学(北海道大学)
「環境を通した教育」を方法原理とする幼児教育・保育の実践において,環境の特性を把握するための概念枠組みや評価軸の検討は重要な論点となる。幼児にとっての環境のうち,ここでは人的環境としての「教師」と,物的環境としての「木の棒」を取り上げる。幼児教育は,小学校以降と比較すると諸環境の枠の自由度が高い実践であり,特に教師は複数人で保育にあたることが多い。そのため,教師間の円滑なコミュニケーションは,実践の質を担保する基盤的な条件である。
一方,可動の自然物/半自然物(花,葉っぱ,どんぐり,石ころ,砂・土,木など)も,幼児の感性を育み,遊びを促す材としての重要環境である。木の棒は,幼児が好んで接触・使用する材の代表であり,多様かつ創造的な遊び方を生む。
報告では,センシングデバイスを用いた教師間コミュニケーションと幼児の棒使用に関する定量データをもとに,そこから得られる実践的示唆と今後の測定に関する諸課題を整理する。
「遺伝子と情報:Gene Matched Networksとコミュニティー解析への応用」
八木 健・木津川尚史(大阪大学)・合田徳夫((株)日立製作所)
私たちの脳には,約1000億個の神経細胞があり,一生にわたる莫大な情報を処理している。私たちの脳に,莫大な情報処理をするシステムがどの様につくられているのかは未だ不明である。しかし,近年,脳の情報処理の基盤には,神経細胞の個性ある神経活動と,様々な組み合わせの神経細胞の集団的活動が重要であることが明らかとなり,その活動は,複雑なニューラルネットワークの性質によりもたらされていることが示唆されている。これまでに私たちは,個々の神経細胞でランダムな組み合わせで発現している遺伝子(クラスター型プロトカドヘリン(cPcdh))群を発見した。この遺伝子群は,神経細胞間のネットワーク形成に関わることが予想されており,現在,分子メカニズムの研究が進められている。一方,シミュレーション解析の結果,個々の神経細胞で(ネットワーク形成)遺伝子群がランダムな組み合わせで発現して形成されたGene Matched Networksは,集団性が高くスモール・ワールド(短い距離)性をもつ複雑なニューラルネットワークとなることが明らかとなった。実際,脳にある複雑なニューラルネットワークは高い集団性とスモール・ワールド性をもつことが明らかとなっている。本講演では,このGene Matched Networksの特徴について解説し,この脳研究により明らかになった新しいGene Matched Networksモデルが,実は,人の集団におけるコミュニティー活動を定量的かつ視覚的に解析する上でも有効であることを,ビジネス顕微鏡により取得した授業データの分析結果を用いて紹介する。
「ビジネス顕微鏡を用いた授業分析の可能性」
伊藤崇(北海道大学)
この発表では,小学校の一斉授業ならびに理科のグループ活動に参加する教師と児童を対象として,コミュニケーション過程を記述する新しい方法を示す。教育学や心理学においては,授業での学びの実際を明らかにするため,そこでのコミュニケーションに焦点を当てた分析がなされてきた。しかし,丁寧な分析をしようとすればするほど,コミュニケーションの複雑さの記述に時間を要することとなる。本研究はこうした問題に対して,ウェアラブルセンサによって授業中の対面データを収集することを通して一定の解決を図ることを目的とする。さらにこうしたセンサは,身体の揺れのリズムなど,観察者としての人間には把捉不可能であった側面に焦点を当てることも可能にする。当日はこれらの新しい種類のデータから授業研究にどのような展開をもたらすことができるかについて議論したい。