066-小林標『ラテン語の世界』(中公新書)

小林標 (2006) ラテン語の世界:ローマが残した無限の遺産 中央公論社

ラテン語の世界―ローマが残した無限の遺産 (中公新書)

積ん読を消化すべく,仕事への行き帰りなどで少しずつ読み進めていた一冊。ページをめくる手がなかなか進まなかったのだが,ようやく読了。

ラテン語はすでに話す人の絶えた死語である,という認識が大きく変わる。

ラテン語に由来する語を,フランス語やイタリア語,スペイン語はもちろんのこと,英語の中から見つけることはたやすい。言い換えると,世界の多くの人々はラテン語の恩恵をいまなお享受して言葉を使っているということだ。

そうしたラテン語を実用のための言語として学ぶのに,日本語話者は向いている,というのが著者の評。なぜならラテン語では母音の長短の区別が音韻論的な価値をもっているからである。こうした特徴はヨーロッパの多くの言語には見られないものである。

levisという綴りは,母音の長短を考慮に入れると4通りの発音が可能である。そして,この場合,その四つの発音が意味を区別してしまうのである。
 短短(レウィス)「軽い」単数主格
 短長(レウィース)「軽い」複数対格
 長短(レーウィス)「なめらかな」単数主格
 長長(レーウィース)「なめらかな」複数対格

p.84

「おおおばさん」「いりえへいく」のように,母音を重ねることに慣れた耳をもつ日本人には難なく聞き取ったり話したりすることができるだろう。

さらに,アクセントも強弱ではなく高低アクセントだったのではないか,と著者は推測する。実際に,ラテン語のラジオ放送Nuntii Latini(なぜかフィンランドのラジオ局が制作している)を聞いてみると,のっぺりとした音調がなんだか日本語に近いような気がする。

本書はラテン語初学者のための入門書というよりも,ラテン語を学ぶ上で必要な地理的,歴史的,文化的背景の入門書として書かれている。著者もラテン語文学を専門としているようだ。言語としてのラテン語の説明は必要最低限に抑えられているが,文中や巻末に言語学的な入門書・専門書が挙げられているのでそちらを参照すればよいのだろう。

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