大教室で講義をするために(3)

3. Twitterという学習回路を開く

ぼくがTwitterのアカウントをもっており,しょっちゅう何かつぶやいているのと同じように,受講生もしょっちゅう何かつぶやいたり,タイムラインを追っていたりするわけです。講義をする上でこれを何とか利用できないかと思っていました。

今回の第1回の講義の終了後,自分のアカウント情報を見ると,フォロワー数がじわっと上がっていました。どうやら受講生がフォローしてくれたということが分かりましたので,いっちょやってみようという気持ちになりました。

そこで,担当回数の半分が過ぎた頃,おもむろに,講義専用のハッシュタグを設定し,レジュメに記載しました。「#KN2amcn」というもので,KyoikugakuNyumon2 AMaChaNの略です。

それまでも,講義中に講義に関連した内容を(←ここ重要)ツイートしてくれた受講生はいました。ハッシュタグを使うことで,個々ばらばらのつぶやきを1本の時間の流れに統合し,全体を閲覧することが可能になります。

論より証拠,こちらから今回の講義中や講義の外において,講義に関することとして受講生が行ったツイートを見ることができます。

はじめは,賑やかしというか,お遊びでハッシュタグを入れたツイートをする受講生がちらほらと見られるくらいでした。私はそれに対してツイートの内容と同じコンテクストでリプライすることとしました。つまり,まじめに講義内容と関係するのであればまじめな,遊びであれば(例えば,「単位ください」など)ふざけたリプライを返すようにしていました。受講生によっては「教授から返信が来た!」と恐れおののいたり喜んだりといろいろな反応があります(ちなみに,私は「教授」ではないのですが,多くの受講生は大学の先生のことを「教授」と呼ぶものだと考えているようです)。

そのうち,講義のTAをしてくれた院生さんが,自分のアカウントを使って講義の実況をすると申し出てくれました。そこで,最後の2回は,TAさんに講義のリアルタイム中継をお願いすることとしました。結果的に,この中継はとてもよい効果を生んだと思います。すなわち,ハッシュタグで統合されたタイムラインに1つのストーリーを持たせることができ,個々の受講生のツイートはそのストーリーをコンテクストとして読み解くことが可能になるのです。イメージすると,ストーリーというしっかりとした幹に1本1本の枝が突き刺さっていくという感じでしょうか。

ここで本当に嬉しかったのは,講義に関連したツイート群をtogetterにまとめてくれた受講生がいたことです。こちらからお願いしたわけではないのですが,「自分の復習になりますから」と自発的に引き受けてくださいました。しゅがーさん,本当にありがとうございます。講義は「ナマモノ」なので,終わってしまうと講義した者ですらそのときのことを忘れてしまいます。ですが,こうしてまとめていただけると思い出すことができていいですね。

今回個人的にTwitter連動がうまくいった(ように感じる)背景には,実況をしたことがあるTAさんがいたことと,受講生の中に積極的にハッシュタグを使ってつぶやいてくれる方がいたこと,があったように思います。逆に言えば,そういう幸運なことがないと,寂しい結果になるかもしれません。

さて,Twitterが学習の回路としてどのような可能性を持っているのかについてです。

受講生には専用のハッシュタグを知らせてありますので,講義をしているさなかに,他の受講生がどんなことをつぶやているのか,リアルタイムで検索し,閲覧することが可能です。これによる効果は2つあったように思います。

1つは,私の話したことに対する,他の受講生の反応を知ること。例えば,「いじめ」を取り上げた回では,この問題に対する受講生間の態度の違いが鮮明に出て,あたかもグループディスカッションが起きているような感覚を,後からタイムラインを見返してみて感じました。受講生同士が現実に面と向かって話すことではなかなか得られない話し合いの内容だったのではないかと思います。実際に,「いろいろな考えを知ることができてためになる」というツイートも目にしました。

2つ目は,特に大教室の場合はそうですが,互いに面識のない受講生同士で,つながりが生まれるということ。これは不思議なもので,「北大生である」という共通項しかない人々がたまたま同じ講義に参加していて,たまたまハッシュタグを用いてつぶやくことでつながりがそこに生まれるのです。これはある種の「学習」と言っていいでしょう。もちろん,こういうつながりが苦手であったり,嫌いであったりする方もいるでしょう。そういう方は,ハッシュタグをつけずにつぶやけばいいだけの話であります。

実はもう1つ効果があって,それは私にもたらす効果なのですが,講義中に受講生がスマホをいじっていてもまったく気にならないのです。なぜなら,上記のように講義中の他の人のツイートを閲覧していたり,あるいは実際にツイートしている可能性があるからで,そういう形での講義への参加を許している以上,むしろどんどんスマホを見てほしい,と思えてくるのです。冗談じゃなく,実感した本当のことです。

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