エレノア・ギブソン 佐々木正人・高橋綾(訳) 2006 アフォーダンスの発見:ジェームズ・ギブソンとともに 岩波書店
夫ジェイムズ・ギブソンは、表象ではなく実在を基にしたラディカルな知覚-行動論を唱えたことで知られる。かたや知覚理論の基礎を固め、かたや知覚学習の実験的研究を続け、ふたりが両輪としてアフォーダンス理論を作り上げていったさまが本人によって語られる。
感傷に浸るでもなく、自慢するでもなく、ご本人の目から見た事実をただとつとつと書き連ねる筆致から、最初は退屈だったが、だんだんと人柄なのだろうと感じられてきた。
素朴物理学の実験で知られるエリザベス・スペルキが、エレノア・ギブソンの院生だったということを、この本で初めて知った。
赤ちゃんは生まれながらにして(あるいは、誕生後のわずかな間での学習によって)物理的にありうる現象とそうでない現象(たとえば、物が壁を通り抜ける、など)を区別することができる、スペルキが数々の実験で示したのはこのことだった。ここから、生得的な物理知識モジュールを仮定する道へはたやすい。
一方、エレノア・ギブソンは探索的な行動を重視する。アフォーダンス理論では、意味の可能性はすべて環境に実在する。赤ちゃんは環境のなかを動き回り、行動を通して意味を具体化していく。したがって、強引に言えば、知識なるものは行動において発現するものである。
かつての師弟は、こうまですれ違うのである。
巻末のインタビューが楽しい。数いる弟子のなかで、生態心理学の道から外れたのは、どうもスペルキ一人だったらしい。会って二日間議論したこともあるそうだが、インタビューでは、唯一正しいのがアフォーダンス理論であって、他のはどれも大間違いだとすっぱりと切り捨てている。二人の間ではどんな議論が交わされたのだろう。