S氏と飲む

 酒友、S氏が東京から札幌に飲みに来るというのでご一緒する。

 車で新千歳空港へ。ピックアップして夕張へ向かう。特に何の用があるわけではないのだが、北海道の地方の街の現況をお見せしようと思い、お連れした。

 商店街には人の姿がない。市民はどこにいるのだ。平日の昼間と割り引いてもこれはひどい。「お茶を飲みましょう」と手近の喫茶店に入ると、2人連れおばあさんが2組と観光客とおぼしきカップルが1組。狭い店内のテーブルはほぼ埋まっていた。ここにいたのか。

 夕張を出て由仁町へ。昨年訪れて気持ちよかったユンニの湯という温泉につかるため。あいかわらず湯が黒い。

 話は逸れるが、このところ両足の膝の裏がひどい具合になっている。肌の乾燥が原因だろうが、かゆくてかゆくてポリポリしていたら化膿してしまったのである。どす黒くなった膝の裏と周辺の赤い発疹を見て、「うわ、ひどいですね」と言われる。皮膚病に効くそうだから少し期待してみる。

 湯を出て1時間ほど車を走らせて札幌に戻る。車を自宅に戻し、地下鉄で街へ。

 1軒目は、札幌駅北口の「かんろ」。6時ちょっと前に入店すると1歳半くらいの男の子がちょろちょろしていた。お店の方の子どものようで、お母さんがおんぶしながら厨房で料理をしていた。

 S氏のご所望はホッケ焼きとラーメンサラダ。こればかりは東京では食えぬものである。あと、塩辛、ブリ刺し、ナマコ刺し、ハツ、タン、アイヌネギ醤油漬け、牡蠣酢、ししゃも焼きを食べる。2時間半の滞在。ちょっと食べ過ぎたか、腹をさすりながら2軒目へ。

 腹ごなしにすすきの方面へ歩く。都通りを抜け、気になっていた「樽詰めギネスビールTANAKA」へ。先日読んだ「さっぽろ酒場グラフィティ」にも紹介されていた、古いバーであるとのこと。確かに年季が入っており、座るソファにはツギがしてあった。

 店名にまでなっているのだからと、ギネスをハーフで。突き出しにサラミ。1時間ちょっとで出る。

 3軒目に、Tさんから教えてもらったワインバー「夜光虫」へ。ここは食べ物がおいしいのだが、もう腹一杯で何も食べられない。隅のテーブルに陣取り、S氏はグラッパ、私はジントニックで1時間ねばる。

「それにしても」とS氏。「前の店もここも、客がいないですねえ」

 9時を過ぎ、TANAKAはわれわれだけ、夜光虫はカウンターの先客2人だけであった。

「若い奴らはどこで飲んでるんでしょう」
「家で飲んでるか、そもそも飲まないんじゃないでしょうか」

 4軒目、もう足も肝臓もくたびれてきたが、ここを最後にと気力をふりしぼり、チェーン居酒屋「菱箸」へ。足を踏み入れてすぐ、待合いのイスにこしかけてメールを打つ若いやつが。通されたテーブルの壁隔てた向こう側では若者の喧噪。ここにいたか。

 S氏は明日朝10時の飛行機で東京へ戻るという。中島公園のホテルへ送り、帰宅。

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