ナレーションの一切省かれたドキュメンタリー。観る者は、「そこ」に唐突に投げ出される。「そこ」がどこであるかは、事前情報なしには分からない。妙な人々が妙なことをしている日常が延々と視界に投影される。
「そこ」は、ラ・ボルド。フランスにある、精神科のクリニックである。院長はジャン・ウリ。フェリックス・ガタリはここの創設に携わり、ここで息を引き取ったそうだ。
たとえば病床があり、給食室があり、薬の分配があることで、かろうじてそこが病院であることが分かる。が、カメラの追う出来事は、およそ病院らしくない。劇である。
人々が台本を片手にセリフを叫び、歌を歌い、体を動かす。演じるのはゴンブロヴィチの『オペレッタ』。与えられた役をこなすのも骨が折れる人もいる。しかし各人が相応の仕事を着実にこなしながら本番を迎える。
この映画で面白いのは、映る人がカメラをじろじろと見ることであり、ときにカメラを回す人(フィリベール?)に話しかけることである。
当たり前だが、カメラが人々を見るのと同時に、人々もカメラを見る。「見ることは見られること」だ。見られるという私の経験の確からしさを経由して、フィルムに映る人々のもつ確からしさもまた感じられるのである。
すべての些細な事柄 [DVD]posted with amazlet at 09.02.10バップ (2008-08-27)
売り上げランキング: 77527