我が心のオアシス三徳六味さんが美園のお店をたたみ円山にうつると聞いて2ヶ月、とうとうその日がやってきた。
9時にアマネを寝かしつけてから夜に飛び出し、お店に向かう。
ドアを開けると、黄色いTシャツを着た亮さんがいた。カウンターと小上がりは人でいっぱい。常連さんが貸し切りで、三徳さんの前途を祝う会を開いていたようだった。
席が空いていなかったので挨拶だけで失礼しようとするも、常連さんがイスをあけてくださった。その彼はカウンターの向こう側へ。そして雇われマスターとなった。
店の冷蔵庫の上にいつも鎮座ましましていたダルマがおろされ、亮さんの筆によって目が書き入れられた。
「社長」さんの音頭で一本締め。
料理を一通り作り終わりすっかりいい気分になった亮さんがダルマを抱きかかえて隣の席へ。
「あっちでの勝算はあるんでしょう」
「あるわけないでしょう、でもね、男としてね、やらなきゃならないんです」
カウンターの内の雇われマスターは終始明るく元気だった。
3年前の11月、現在の団地に引っ越してきたばかりのころ、たまたま寄ったこのお店の料理に惹かれ通い始めた。当時はまだ単身赴任で気楽に夜を遊べたからできたことだった。カミさんを呼び寄せてからは、「たまの贅沢」としておじゃました。子どもができてからは「特別な日のすごい贅沢」となった。今度はいつ行こうか。そんなことを楽しみに考えながら店の前をいつも通り過ぎていた。
その、心のオアシスが物理的に遠くなってしまうのは、正直なところ寂しい。でもここは、亮さんが奥さんと一緒に苦労して一から作り上げてきたところだ。ぼくらがどうこう言える権利などない。
飲みながら亮さんの「野望」を聞くのが楽しみだった。たまたま年齢が同じということもあり、うらやましく聞いていた。その「野望」を実現させるための一歩が踏み出されたんだろう。
今日で閉める店内で笑いあう常連さんたちの姿を見ると、愛されているんだなぁとあらためて思った。
次の日早くに用事があったため日が変わる前に辞した。帰り際、亮さんと手を握りあった。
ここでの一区切りは次のはじまりでもあろう。その瞬間に立ち会えてよかった。席を替わってくれた雇われマスター、ありがとう。混ぜてくれたみなさん、ありがとう。
そして、亮さん、ミキさん、また10月に。