FW1 4-6

     Sir Tristram, violer d’amores, fr’over the shot sea, had passencore rearrived from North Armorica on this side the scraggy isthmus of Europe Minor to wielderfight his penisolate war:

 Sir Tristram…had passencore rearrived from North Armorica on this side the scraggy isthmus of Europe Minor to wielderfight his panisolate war: トリストラム伯爵が、半島戦争を支配すべく闘うために、北アルモリカからこちらがわヨーロッパ・マイナーのごつごつした地峡へ、ふたたびやって来たのはまだ先のこと。

 Sir Tristram: サー・アモリー・トリストラムSir Amory Tristramは初代のホウス城伯爵。アルモリカの北、すなわちブルターニュ地方に生まれ、後に聖ローレンスと名前を変えた。
 トリストラムはトリスタン(pdf)も連想させる。ワーグナーの歌劇で知られる、トリスタン物語の主人公。彼はブルターニュで育ち、コーンウォールに戻る。その後叔父マルケ王(King Mark)の妻となるべきイゾルデを迎えにアイルランドへおもむく。
 この一節は、海を越える人々のモチーフ。

 violer d’amores: viola d’amoreヴィオラ・ダモーレ。7本の弦がはられた擦弦楽器。
 violer: フランス語で「侵犯するviolate」*1
 d’amore: イタリア語で、「愛のof love」。

 fr’over the shot sea:
 shot sea: short sea。航海用語で、「短距離海路」。たとえば、short sea shippingは「短距離水上交通」。
 short seaは「不規則に波打つ海面」という意味でもあるようだ。また、上に書いた「short sea = 短距離海路」はちょっと怪しくなってきた(8/16追加)。

 passencore: pas encore(フランス語で、not yet「まだ~しない」)
 passencore: "pas encore and ricorsi storici of Vico"*2 ricorsi storici(ヴィーコの歴史循環説との関連)
 had … rearrivedとpassencoreは矛盾する。すでに起きたことが、これからもう一度起こるという歴史の循環。

 North Armorica: アルモリカはフランス北西部、ブルターニュあたりの古い名。同時に、North Americaも指す。

 Europe Minor: 小アジアAsia Minorではなく、「小ヨーロッパ」。小アジアは、現在言うところの、ボスポラス海峡を挟んだトルコの東側、アジアの西端。したがって、ヨーロッパの西端、ブルターニュ、ブリテン、アイルランドあたりを指すものと思われる。

 isthmus: Isthmus of Sutton*2。サットンとは、ホウス岬の付け根にあるあたり

 weilderfight: 振りかざすwield+闘うfight。
 wiederfichten ドイツ語で、「再戦refight」*1

 penisolate war: ナポレオンの起こしたイベリア半島戦争のこと。この半島は、同時に、トリストラム伯のいるホウス岬や、トリスタンのいるコーンウォールも示す。
 penisolate: ペンpen+孤立したisolate。孤独にペンを走らせる戦い。ジョイス自身の像かも。

 この節全体が、いくつかのレベルで読める。上に書いたのは地誌的、歴史的、神話的レベルでの読みであるが、viola d’amoreで音楽のイメージが沸くと、Minorは「短調」の意味にとれる。また、セクシャルなレベルは常に考えておかねばならないから、penisolate warにペニスの戦いを見て取ることもできる。


*1 McHugh, R. 1980/91 Annotations to Finnegans Wake. Johns Hopkins University Press.
*2 Ellman, R. (Ed.) 1976 Selected letters of James Joyce. Faber and Faber. p.317.

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