新刊『新しい言語心理学』が出ました+イベントの告知

伊藤が編集と執筆を担当した教科書が出版されました。

茂呂雄二・伊藤崇・新原将義(編) (2024). 新しい言語心理学 ひつじ書房

心理学の対象として言語を研究する際の迫り方にはいろいろとあります。この教科書は,従来の言語学や心理学の考え方から得られた知見を紹介しつつ,「新しい見方」(a new perspective)に立ったときに見えてくるものを描き出そうとするものです。

その見方とは,「ことばとは実践である」というもの。

沈思黙考する際の言語,完璧な体系として書物に定着させた言語ではなく,人々と共に活動する際の言語,不完全な構築物として常に作り直され続ける言語。簡単にまとめると,世界とともに変化し続ける言語を心理学の対象としましょうよ,という見方です。

こういう考え方は実は今に始まったものではありません。ウィトゲンシュタインやヴィゴツキーといった先人たちがすでに主張していました。

遙か昔に卒業しても執筆をお声かけくださる師匠や同窓の仲間と共に,難産の末に(3年くらいお腹の中にいました…)書き上げた本書です。とりあえず一度お手に取っていただけましたら幸いです。

なお,関連して,本書構想の背景や執筆プロセスなどをお話しするオンライントークライブが開催されます。詳細は下のチラシから。ご参加をお待ちしています。

『大人につきあう子どもたち』修正箇所一覧

拙著『大人につきあう子どもたち:子育てへの文化歴史的アプローチ』(共立出版)が2刷となりました。ご愛読くださいましてありがとうございます。

増刷に際して1刷にあった要修正箇所を修正しました。下記に修正箇所一覧を掲載します。

1刷をお手元にお持ちの方におかれましてはご修正のほどお願いいたします。

お名前は個別に挙げられませんが,修正の必要な箇所についてご指摘くださった皆様にはこの場をお借りして感謝申し上げます。ありがとうございました。

p.36
1刷
コンピタンス・パラダイムに立脚し,前言語期の幼児と大人の

2刷
コンピタンス・パラダイムに立脚し,幼児と大人の

p.97 注
1刷
Hedegaard(1999)はデンマークに暮らす

2刷
Hedegaard(1999)においてはデンマークに暮らす

p.98 図4.1
1刷
家庭の習慣 保育園や幼稚園の習慣 小学校の習慣

2刷
家庭の実践 保育園や幼稚園の実践 小学校の実践

p.135 断片16
1刷
【断片16】 ミズキ 時刻:11:19:54(ミズキは日直の1人)

2刷
【断片16】 ミズキ(4歳) 時刻:11:19:54(ミズキは日直の1人)

p.135 断片17
1刷
【断片17】 ユカ 時刻:11:33:39

2刷
【断片17】 ユカ(5歳) 時刻:11:33:39

p.135 断片18
1刷
【断片18】 トモミ 時刻:11:51:51(トモミは日直の1人)

2刷
【断片18】 トモミ(6歳) 時刻:11:51:51(トモミは日直の1人)

p.136 断片19
1刷
【断片19】 トモミ 時刻:15:10:00

2刷
【断片19】 トモミ(6歳) 時刻:15:10:00

p.137 断片20
1刷
【断片20】 ユカ 時刻:15:05:55

2刷
【断片20】 ユカ(5歳) 時刻:15:05:55

p.184
1刷
イスにはジャンバーを着た

2刷
イスにはジャンパーを着た

2刷
p.196 書誌情報の追加
Ninio & Snow (1996)とOchs & Kremer-Sadlik(2015)の間に

西阪仰 (2001). 『心と行為:エスノメソドロジーの視点』. 岩波書店.

を追加

【学会】日本発達心理学会第34回大会にて発表します

2023年3月3日~5日の日程で立命館大学いばらきキャンパスにて開催される日本発達心理学会第34回大会にて下記の通り研究発表をいたします。

3月4日(土) 15:00~17:00 イベントホール
4PM2-P-PS26 子どもの家庭生活に埋め込まれたデジタルテクノロジー

現在進めている,家庭における子どもの日常生活実態調査の一部を元に,子どもによるデジタルテクノロジー使用をどう分析するかを議論します。

対面開催される学会での研究発表は実に4年ぶりです。楽しみです。お待ちしております。

攻撃を受けました+「心理測定尺度集まとめ」はどこにあるのか問題

やられました…。

このブログと私の研究室のサイトを置かせていただいているサーバが,外部からの攻撃を受けて一部使えなくなってしまいました。

あんまり具体的に書くとあれですが,かつて使っていたとあるCMSを置きっぱなしにしていたら,その脆弱性をつかれて侵入されたようです。

定期的にバックアップを取っていたのが幸いして,サーバのファイルを一端すべて消した後で復元することができました。

ただ,直前まで運用していたブログもまた古いデータベースを使っていたりPHPのバージョンが古かったりと,今後問題が起こりそうなので,いっそのことと新しく作り直した,という次第です。

で,そうなると困るのが,拙ブログで引き合いの多いエントリーである「心理測定尺度集まとめ」に外から貼られていたリンクが切れてしまう点です。

そこで,以下にブログの当該エントリと,弊研究室サイトの中のまとめへのそれぞれのリンクを挙げておきます。なお,「ほぼ完全版」と「目次準拠版」は同一のリストです。「完全版」は,「尺度集」の本文中に引用されているすべての尺度を掲載したものです。

ご活用いただけましたら幸いです。

ブログエントリ
『心理測定尺度集Ⅰ~Ⅵ』所収尺度まとめ【ほぼ完全版】

研究室サイト
『心理測定尺度集I~VI』所収尺度まとめ【目次準拠版】
『心理測定尺度集I~VI』所収尺度まとめ【完全版】

ネットラジオはじめます

研究会や勉強会などでたいへんお世話になっている岡部大介先生におつきあいいただき,ネットラジオをはじめてみることにしました。状況論という,心理学のなかでも割とニッチな部分に特化した内容なのでニーズがあるのかどうか分かりませんが,ゆるゆると続けていければと思っています。

■どんな配信なの?■

心理学や認知科学においてすでにその一角を成している,状況論(situated approach)という考え方が世に現れておよそ30年が経ちました。

80年代から90年代前半に,先人たちが切り開いてくれた状況論の理論的な面白さを,(90年代後半に)大学生・大学院生であったわたしたちは感じながら研究を続けてきました。

ただその一方で,2010年代以降の,さらには「生まれたときから状況論」の若手研究者や大学院生とその熱狂を展開し,分かち合うことをわたしたちはサボりすぎていたように思います。

いただきものにお返しをしよう。あの,状況論が「生まれた」当時の熱気(本当に「熱気」があったのか?)を「ゆるゆると(コンヴィヴィアルに)」取り戻してみたい。そして,この先30年をちょっとでも前に推し進めていきたい。そんな単純な気持ちから,インターネットラジオを始めてみることにしました。

いきなり始めるのではなく,まずは「準備室」を開室しました。2人の「相談者」が,準備室の中で今後のインターネットラジオ企画についていろいろと画策する様子を一般に公開するのが,この,「コンヴィヴィアラジオ 生まれたときから状況論!(仮) 準備室」です。

■誰が話すの?■

岡部大介 @okabedaisuke
 1973年生まれ。東京都市大学教授。「ボス」(上野直樹先生)との密なつきあいの中で状況論に出会う。

伊藤 崇 @dunloeito
 1975年生まれ。北海道大学准教授。「師匠」(茂呂雄二先生)との衝撃的な出会いとともに状況論に出会う。

■いつどこでやるの?■

2021年9月24日(金) 19:00-20:00
YouTubeLiveにて限定配信します。
ちょっと聞いてみようかと興味を持たれたら, https://youtu.be/foWy95LY7ew にアクセスしてください!

新刊『革命のヴィゴツキー:もうひとつの「発達の最近接領域」理論』(新曜社)が出ました

サバティカルの成果第2弾です。

フレド・ニューマン、ロイス・ホルツマン 伊藤崇・川俣智路(訳) (2020). 革命のヴィゴツキー:もうひとつの「発達の最近接領域」理論 新曜社

フレド・ニューマン(Fred Newman)とロイス・ホルツマン(Lois Holzman)が1993年に出版した”Lev Vygotsky: Revolutionary scientist” (Routledge)の邦訳です(底本は2014年にPsychology Pressから出たクラシックシリーズの1冊)。

1980年代にアメリカで起きたソビエト心理学の再評価運動においてヴィゴツキーは常にその中心にいた心理学者であり、その動向はヴィゴツキー・リバイバルと呼ばれるほどでした。

当時のヴィゴツキー評価の方向性を、その渦中にあって批判し、新たな実践を模索していたのが著者の2人です。

この批判の仕方がめっぽう面白い。詳細は読んでみていただきたいのですが、一部でも取り上げてみましょう。

たとえば、ヴィゴツキー・リバイバルの立役者、マイケル・コールについて(ちなみに著者のホルツマンはコールがニューヨークのロックフェラー大学に設立した研究所で働いていましたし、共著者にもなっていました)。彼が中心になって模索された「生態学的に妥当な方法論」は、子どもたちが実験室で見せるパフォーマンスの現実場面でのそれとの無関連性を批判するものでしたが、

生態学的に妥当なものであるとしても、科学によって生み出されたものを「見ること」は、結局、社会に規定された行動である。新しい物事を見ることができるようになるかもしれないが、見ている物事そのものを変える(transform)ことはないのだから、革命的活動ではないのである。(第2章 方法論としての実験室 p.35)

ニューマンとホルツマンが志向するのは、現実をただ「見て」「記述する」科学ではありません。さらに言えば、現実をただ「見る」ことなどできない、と考えています。

では何ができるのでしょうか? あとは本書を読んでみてください。

新刊『大人につきあう子どもたち:子育てへの文化歴史的アプローチ』(共立出版)が出ました

2016年より細々と続けていた執筆を、昨年からのサバティカルを利用して「えいやっ」と終えたのが年末。

そして、幾度かの校正を終え、ついに出版の運びとなりました。

越境する認知科学シリーズ第4巻『大人につきあう子どもたち:子育てへの文化歴史的アプローチ』(共立出版)

発売は5月26日からとなっておりますが、一足早く私の手元に献本分が届きました。並べてみると壮観ですね。苦労して生み出しただけあり、感動もひとしおです。

ぜひお手にとってください。そしてご高覧いただけましたら、感想・お叱りなど、ぜひお知らせください!!

COVID-19を封じ込めるべくかつての日常生活を犠牲にしている現在、出版業界もまた他の業界と同じくらいひどい損害を受けていると聞いています。そのような中で出版できたことは関係者各位のご尽力の賜です。「あとがき」には書けなかったのですが、共立出版の日比野さん、河原さんには厚くお礼申し上げます。

伊藤崇

【学会】日本教育心理学会第61回総会に参加します

2019年9月14日~16日の日程で日本大学にて開催される日本教育心理学会第61回総会にて下記のシンポジウムを国立教育政策研究所の山森光陽先生と企画いたしました。 話題提供も担当します。

9月15日(日) 16:00~18:00 3号館3階 3303
JF03 生体情報を用いた教授学習研究の可能性
企画・司会 山森光陽( 国立教育政策研究所 )
企画 伊藤 崇( 北海道大学 )
話題提供 長野祐一郎( 文京学院大学 )
話題提供 神長伸幸( ミイダス株式会社 )
指定討論 河野麻沙美( 上越教育大学大学院 )
指定討論 楠見 孝( 京都大学 )
指定討論 有馬道久( 香川大学 )

貴重な企画だと思いますのでご関心のある方もない方も足を運んでいただけましたら幸いです。

【出版】勤務校の先生方との共著が出ます

まだ書店には並んでいないようなのですが,執筆者一同に送られてきましたので告知します。

私の勤務する北海道大学教育学部の創立70周年の記念事業として以下の本が出版されました。

北海道大学教育学部・宮﨑隆志・松本伊智朗・白水浩信(編) (2019). ともに生きるための教育学へのレッスン40:明日を切り拓く教養 明石書店

私はその中の1章として「社会化」をテーマに短い文章を書きました。

伊藤崇 (2019). 子どもは大人を社会化するか 北海道大学教育学部・宮﨑隆志・松本伊智朗・白水浩信(編) ともに生きるための教育学へのレッスン40:明日を切り拓く教養 明石書店 pp.80-83.

お手にとっていただければ幸いです。

【学会】日本質的心理学会第16回大会に参加します

明治学院大学にて開催される日本質的心理学会第16回大会に下記の通り参加します。

9月21日(土) 10:00-12:00 2号館 2202教室
関係を紡ぐ言葉の力/言葉を紡ぐ関係の力:「言葉する人 (Languager) の視点から心理療法・教育・学習を横断的に捉えなおす
企画・司会:青山征彦(成城大学社会イノベーション学部)・石田喜美(横浜国立大学教育学部)
話題提供:松嶋秀明(滋賀県立大学人間文化学部)・加藤浩平(東京学芸大学教育学部)・松井かおり(朝日大学保健医療学部)
指定討論:伊藤 崇(北海道大学大学院教育学研究院)

私,この学会の会員ではないのですが,いろいろとかかわらせていただく機会が多くなっている気がします。

それにしても,Languagerという視点は面白いですね。おそらく,『鏡の国のアリス』に登場するハンプティ・ダンプティはLanguagerのひとりでしょう。

‘When I use a word,’ Humpty Dumpty said, in rather a scornful tone, ‘it means just what I choose it to mean — neither more nor less.’
‘The question is,’ said Alice, ‘whether you can make words mean so many different things.’
‘The question is,’ said Humpty Dumpty, ‘which is to be master — that’s all.’
Alice was too much puzzled to say anything; so after a minute Humpty Dumpty began again. ‘They’ve a temper, some of them — particularly verbs: they’re the proudest — adjectives you can do anything with, but not verbs — however, I can manage the whole lot of them! Impenetrability! That’s what I say!’
‘Would you tell me please,’ said Alice, ‘what that means?’
‘Now you talk like a reasonable child,’ said Humpty Dumpty, looking very much pleased. ‘I meant by “impenetrability” that we’ve had enough of that subject, and it would be just as well if you’d mention what you mean to do next, as I suppose you don’t mean to stop here all the rest of your life.’
‘That’s a great deal to make one word mean,’ Alice said in a thoughtful tone.
‘When I make a word do a lot of work like that,’ said Humpty Dumpty, ‘I always pay it extra.’

Through the Looking Glass, by Lewis Carroll