イボを焼く

 足の指と手の平にイボができた。

 いや、足の指の方は半年くらい前からあるのは知っていたし、手の平の方も3~4ヶ月前から気にはなっていた。

 どうもぼくの足はイボができやすい何かがあるらしく、小学生の頃から数えてもう3代目である。札幌に来てから1つ退治したのだが、
またすぐに違う場所にできてしまった。しかも2つも。どうせできるなら人面瘡でもできてくれれば話の種になるのだが。

 このイボと長年つきあってきたので、治す方法が液体窒素で患部を壊死させることだというのは十分に知っている。もちろん、
その痛さも知っている。液体窒素をつけた綿棒を皮膚にじゅっとつけるのである。サディスティックな医師であれば、間髪入れずに「ぐりぐり」
と綿棒を回転させながら押しつけるであろう。綿棒が皮膚に触れた瞬間はなんてことないのだが、次第に刺すような痛みが脳天を貫くのである。

 これまでの患部はすべて足の指であった。だからまだ我慢できたと言えるのだが、今回は手の平である。手の平。
人生初の根性焼きである。手の平を焼くというのだどうにも嫌で、それで半年近く放っておくこととなったのである。

 イボ自体は、放っておいてもたいした問題はないらしいのだが、やはり気になる。特に手の平のものは、
どうしても何か持つたびにひっかかってしょうがない。しかもこのイボ、どうもウイルス性のものらしく、伝染するらしい。実際、
アマネの手の平にも似たようなのができてしまっている。責任を感じている。このままではアマネもイボだらけになるかもしれない。

 そんなわけで、近所にある皮膚科の扉を開けたのだった。

 この皮膚科、『愛の水中花』を歌っていた方と一字違いの女性が開業されている。多才な方らしく、歌を歌ってCDを出したり、
FMラジオで自分の番組を持ってパーソナリティをしていたりしているらしい。そのせいか、
金曜は平日であるにもかかわらず午前中で診療が終わる。まあそれはよろしい。

 保険証を受付に出し、ソファで備え付けの『北斗の拳』を読んでいるとすぐに呼ばれた。

「どうしましたか」
「イボです」
「またですか」

 前回、札幌に来てから焼いてもらったのはこの方であった。

「足の指と、今回は手の平にも」
「そうですか、じゃあ焼きましょう」
「こちらにうつぶせになってください」

 黒い革張りの寝台に、靴下を脱いで横たわった。靴下の中にあったとおぼしきホコリが足の裏にくっついていて恥ずかしかった。

「それじゃあやりますね」

 液体窒素綿棒の出番であろう。まもなく「ぐりぐり」が始まるのかと恐怖におののいていたが、耳慣れない音が足下から聞こえてきた。

「シュー」

 な、なんだ。液体窒素が沸騰しているのか?そもそも沸騰するのか?沸点は何度なのだ?
何しろうつぶせになっていて足下はまるで見えない。何が行われているのか分からないというのは恐怖である。

「うっ」「うっ」

 しかし心理的な恐怖は身体的な痛みに簡単に圧倒される。大の大人が痛くて声を出してしまうのである。

「今度は手の平ですね」

 寝台の上に座り、手を女医に差し出す。女医がもっていたのは、綿棒ではなかった。なんだろうこれは。スプレーのようなものだ。
ノズルの先から雪女よろしく白い空気が勢いよく噴射されている。後で調べたら「クライオサージ」と呼ばれる器具のようだ。
「液体窒素を安全に効率よく送り出します」だそうだ。

 そのクライオサージから噴射される白い気体が、ついに、手の平のふくらみに襲いかかった。

「うぐう」

 これは痛い。足も痛いが手はもっと痛い。3~4回、ノズルを遠ざけたり近づけたりして施術は終わった。

「ではまた1週間後にきてくださいね」

 冬は焼きイボに限りますなあ。お後がよろしいようで。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA